ラノベ感想:蜘蛛ですが、なにか?16
ついにシリーズ本編完結。大団円。アニメのぶん投げ具合に先が気になって読み始めた原作もついに終わってしまいました。普段は買わない特装版ですが、短編付きということで購入。本編部分は4時間くらいで一気に読み切ってしまいました。
あらすじ
ワールドクエストが発動し、黒と相対する白。その一方で、魔王たち白の陣営と、教皇をはじめとする黒の陣営もそれぞれ動き出す。転生者も含め、白と黒のどちらにつくかを迷う中、魔王アリエルと話ができない状況で教皇に話を聞き、独自の道を進み始めるシュン達一行。
しかし、「天の加護」の影響もあり、シュンの行動が思わぬ方向に事態を動かしていく。白と黒の対決は、女神サリエルは、そして、人族と魔族を含めた全人類と星の運命は?邪神Dの思惑とは?
大団円の16巻、ひとまず終わりですが、なにか?
前回に引き続きラストバトルですが、メインは黒と白の対決ではなく、魔王アリエルとその他人類の戦いになります。エルロー大迷宮で籠城するアリエルと、攻める人族、魔族連合軍。そして、さらなる最終決戦へ。
今巻では各登場人物たの視点でワールドクエストへの関わりを描きつつ、ワールドクエストの進展を追っていきます。人魔大戦の時と同じ流れです。
ワールクエストの真実
さて、ここでワールドクエストをおさらい。
ワールドクエスト発動。世界の崩壊を防ぐため、人類を生贄に捧げようと画策する邪神の計画を阻止、もしくは協力せよ
ここに思わぬ落とし穴があったとは。確かに、ワールドクエストの中で「邪神」が出てくるのはこの部分だけで、あとは「白き神」と「黒き神」となっています。ここをちゃんと読んでいませんでした。
というわけで、お花畑勇者のシュンのどちらにも付かないという選択がここで非常に重要になってきます。
さて、「ネタバレ」という禁忌にだいぶ抵触してしまいましたが、さすがにここから先感想を書くのに禁忌をカンストせざるえませんので、未読の方はここでブログをそっと閉じてください。
勇者シュン、世界を救う
勇者であるシュン自体はそれほどの力を持ちません。唯一、一度だけ神をも屠るという勇者剣を使える他は、人族としては優秀というくらい。白の陣営以外の魔族軍でも勇者剣なしではなかなか勝てる相手が少ないように思います。実際、真のラストバトルでは後方支援にほぼほぼ徹していました。
正直、白やアリエルに入れ込んでいる読者の自分としては、考えなしのシュンの発言にアリエルほどではないですがキレそうになりました。まあ、感情に任せて発言した後、本人も自覚しているのですが。
きれいごとを並べているだけで、目の前の教皇や若葉さんたちのような覚悟を決めた人たちの心を動かすには、あまりにも中身が伴っていないのだ。
それが、悔しい!
「シュン 1」より
それが、結果的に大団円につながる結果になります。恐るべきは「天の加護」です。これ、単なるスキルの範疇ではないですよね。というあたりは後で書きます。
まあ覚悟を決めれば何をしても良いのか?と言えばそんなことはありません。あの世界の人類の立場なら、魔王ふざけるな!と思うことでしょう。知識として禁忌やその背景を知った(思い出した?)として、その実感もなければ責任も感じにくいでしょう。ただ、16巻に渡って蜘蛛子を通してこの世界を見て、アリエルに肩入れしてしまっている自分からすれば、こいつオイシイところを拾ってくな、と嫉妬に近い感情を抱いてしまうのがシュンです。人として悪い奴ではないし、むしろいい奴なのでしょうが。
第十軍の絆
人類の祈りが黒き神と白き神にエネルギーとしてフィードバックされるという謎システムですが、当然、人類の多くは黒き神に祈りを贈ります。具体的な割合とかは明かされていませんが、まあ、8対2とか9対1、あるいは限りなく0に近いかもしれません。
それをエネルギーという形で目の当たりにした白は「人望ないな」と自嘲するのですが、意外なところで人望を発揮していました。まあ、意外でもないかもしれませんが、麾下の第十軍です。拾ってもらった恩はあるとは言え、複雑な感情があることはフェルミナの章でも触れています。
そう、16巻通して見てきた読者は知っている。なんとしてでも生き残るという意志が最優先のくせに、意外と律儀だったり情に絆されたり面倒見が良いことに。まあ、自分のためだからと言い訳しているのですが。
元ははぐれモノ、ならずモノ、訳あり魔族の寄せ集めだった精鋭軍団第十軍のメンバー全員が白き神側に付き、エルロー大迷宮侵攻軍の後方撹乱を担うのです。おそらく、迷宮内に籠るアリエルの指示とかではなく、フェルミナの独自の判断で。白に対するフェルミなの評価は以下のようになっています。
他人には興味がないくせに、いえ、興味がないからこそなのかもしれませんが、人の人生を大きく変えてしまう行動をさらりとしてしまう。
「フェルミナ」より
善きにつけ悪しきにつけ。
(中略)
それは、私たちが助けられたからだけではなく、白様がアリエル様のために奔走している姿を知っているから。
人のためにあれだけ懸命になれる人を、いつまでも嫌ってはいられない。
アリエルに人たらしといわれる由縁です。16巻で実はこの章が割と気に入っています。万人に理解されなくて良い、自分を知ってくれる人だけわかってくれればそれでいい、って拗らせたボッチにとっては至福です。
天の加護の正体は?
さて、真のラストバトルで死力を尽くした結果届かなかった終盤。アリエルが覚悟を決めた場面。そこに現れたちっこい白い蜘蛛。おそらく、シュンを「愛の巣(笑)」に運んだ白の手下(分体?)で、その後もシュンのポケットに入れられたままDの世界にまでやってきた白い蜘蛛。これが登場した時点で我々は察します。白のターンだ、と。
本来、魔王や自分を殺せる勇者権を持つ勇者と天の加護という不確定要素を排するためにシュンを「愛の巣(笑)」に隔離したわけですが、その後シュンの第3の道を模索したいという足掻きによって進む事態。そして、本来なら殺されたり捨てられたりしても不思議ではなかった小さな白い蜘蛛がそのままシュンと行動を共にし、それが白に状況を伝え、最終的にDの世界に転移する道標になったこと。全てが「天の加護」のせいということになっています。
ただまあ、あまりにご都合なスキルでもあります。これ自体は何のデメリットもなさそうな割に、非常に強力なスキルです。時間制限とか回数制限といった制約もなさそうです。
ここで禁忌(ネタバレ)をカンストします。
エピローグでは、白がアリエルにも隠していた人類救済計画が明らかにされます。それを最初から公開していれば少しは白き神のために祈る人も増えたでしょうに。とは言え、それは邪神Dのお見通しだったわけです。まあ、Dは白の心の中が読めるようですし。
白や読者から見れば面白半分に悪質な嫌がらせをするような存在と捉えがちの邪神Dですが、魔王や古龍たちは意外に「公正」と見ており、作中でも何度かそのような発言があります。実際、システム稼働前に星からMAエネルギーを持って逃げ出した真の龍たちは根絶やしにされていたことがエピローグで明かされました。
それを考えると、天の加護というのは実は邪神Dの介入だったのではないか、と思う部分もあります。おそらく、ベースとしてのスキルは元々あって、勇者の特権としてシステムからの保護を受けることができたのかと思います。が、人魔大戦あたりからの流れはあまりにも都合が良すぎます。迷宮内で蜘蛛子が彷徨っていた際も邪神Dの介入がありましたが、自分のところに届くように邪神Dがシュンにも介入していたのではないかという疑惑を持ちました。少なくとも、小さな白い蜘蛛の存在など邪神Dには筒抜けだったはずですが、それに対して何も手を打っていません。
さらに言えば、今回の件は白を自分の眷属にするための最終試験だったのではないかと思っています。もちろん、たまたま紛れ込んだ面白い存在が居たので、後付けで舞台を用意したというくらいでしょうけど。
邪神Dが正義の存在とは言いにくいし、多分に面白さ優先のところはありますが、確かにか細いながらも救済の道を用意してあるあたり、露悪趣味の愉快犯だけど意外に公正というのも正しい評価のような気はします。
この16巻については「なろう版」と大きく変わっているらしいです。また、そもそもご都合主義が過ぎる部分はあるので、賛否両論だという話を見かけました。自分は「なろう版」を読んでないので書籍版しか評価できません。が、あまりにご都合な部分は邪神Dの仕込みだと思っています。まあ、それが正解かどうかはわかりません。
特装版は短編3作を収録
今回、短編目当てに特装版を買ってしまいました。学園でソフィアが騒動を起こした件をモブ視点で収録したもの、スーが白に達成報酬として愛の巣(笑)を要求した際に家族について話したのもの、ソフィアと京也の模擬戦を描いたもの、の3編。特に知らなくても困るようなものではないものですが、2つ目のスー視点で家族である父母と兄達を語った話はスーのヤバさが半端ないです。王族の家族関係なんてこんなものなのでしょうか?
本編を振り返って
という訳で、蜘蛛ですが、なにか?の本編が終わってしまいました。「本編は」としているのは、あとがきで外伝を書くかもしれないとしているからです。まあ、書かないかもしれないですけど。さらに言えば、邪神Dや白が別の世界に介入する続編というのもアリかもしれないですし。読みたいなぁ(ちらっ)。
人魔対戦とかワールドクエストとか、ぜひアニメで見たいなと思うものの、どうなんでしょうね。円盤の売り上げとか知りませんけど、2期の話も聞こえてこないようだし、なかなか難しいでしょうか。
話としては大きく3つに分かれるでしょうか。序盤の迷宮サバイバル編、中盤の神へと至る道編、終盤の人魔大戦とワールドクエスト編。蜘蛛がどんどん強くなるという前半も楽しかったですが、中盤以降世界の秘密が明かされ魔王に肩入れする白の暗躍が楽しかった中盤。そして、勢力同士の思惑が絡んで激突した終盤と、それぞれに見所がありました。そして、ラストの一文「蜘蛛ですが、なにか?」。
外伝や続編があればまた読みたいところですが、全く違う作品も楽しみです。ここは是非とも著者に並列思考と分体のスキルを手に入れてもらって、どちらも出版してもらえるとありがたい。いや読者と言うのも勇者シュン以上に傲慢で強欲なモノです。
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