ラノベ感想:ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編5

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夏休みの無人島試験を終えていよいよ体育祭のある二学期。今年は文化祭も行われるとの話に加え、2年生のみの特別試験が開催されることに。かって茶柱が学生だった時にも行われた満場一致特別試験。堀北クラスの真価が問われる。

あらすじ

高円寺の活躍により夏休みの無人島試験でクラス順位をあげてきた堀北クラス。二学期が始まり、例年の体育祭に加えて文化祭も行われるとの情報が開示される。

文化祭に向けての準備を進める中、突然、明日特別試験を行う旨が茶柱から告げられる。その内容は満場一致特別試験。学校から与えられた議題について、生徒全員が匿名で投票し、選択肢の一つを満場一致で選択するというもの。議題は5つ。制限時間は5時間。その間であれば話し合いで選択を絞ることも可能。議題で満場一致した内容は実際に実現され、時間切れは大幅にクラスポイントを失うという一見簡単そうな内容。

楽観ブームが漂う中、堀北と綾小路は最悪の場合に備えて準備を進める。そしてまた、櫛田も乾坤一擲の勝負を挑もうとする。

3年間の高校生活の折り返しを迎え、上位クラスを伺いつつある堀北クラスの真価を問う残酷な試験が始まった。

波乱の満場一致特別試験

この試験については前巻でも振りがあったし、場合によってはかなりダメージの大きい試験であることは明言されていました。実際、最速で終えた坂柳クラスは特に大きな波乱もありませんでした。

memo

なお、Aクラス、Bクラスと書いていると訳がわからなくなってきたので、今回から坂柳クラス、一之瀬クラス、龍園クラス、堀北クラスと表記します。

表に出てくる綾小路

今回の特別試験の終盤、堀北の迷いを見た綾小路はついに矢面に立ちます。行きがかりで主導する立場に置かれるのではなく、積極的に場を支配しようとします。それも最後の手段だった訳ですが、櫛田の粘りの結果、ついに引き摺り出されたとも言えます。

ただ、そこも想定内で堀北には内緒で平田と軽井沢には指示済み。ただ、今までは彼らを矢面に出して裏からコントロールしていた綾小路が前面に立つのは、やはり前巻の茶柱との密談でAクラスを目指すことにしたためでしょう。

そして、彼の決断がクラスを動かすとともに堀北を動かします。

苦悩する堀北

もはや、1年生編1巻の頃の堀北とは大違い。綾小路の告発を受けて退学者を出すか、それともあくまで抵抗して時間切れにするか。悩んだ末に彼女の下した決断は…。まあ、これは実際に読んでください。

1年生編とアニメ化作品をご存知の方は知っているかもしれませんが、アニメ化された範囲の原作の頃の堀北は兄しか目に入らず自分優先であったのと、それほど出番もなかったのに対して、アニメでは妙に目立つ演出がされていたためか、結構、ボロクソに言われてました。アニメ放映の頃には原作が1年生の夏の無人島編まで進んで軽井沢と綾小路の関係性が出ていたこともあり、真のヒロインは軽井沢で堀北はアニメのゴリ押しみたいな風潮がありました。まあ、アニメ化の範囲では軽井沢はどちらかと言えばモブみたいなものでヒロインにするのは難しいのですが。

その頃に比べれば、立派にヒロインしているのですから変わったものです。綾小路は情緒面ではともかく、その他の面では成長するようなキャラ設定ではないので、ある意味本作の主人公は堀北とも言えます。裏主人公?(そうするとヒロインは平田か?)

他クラスの動向と今後の堀北クラス

少なくとも表面上は難なく満場一致特別試験を終えた坂柳クラスは除いて、堀北クラス以外もそれなりに波乱がありました。3年の高校生活も折り返しを迎え、特別試験でクラスポイントを稼がないと上位には上がれないのが明確になりつつある今、あくまで上位を目指す層とそこまでは望まない層との乖離が生まれつつあり、どちらのクラスでもひと騒ぎありました。結果として、従来路線を進むことになった坂柳、一之瀬、龍園クラス。

一方、櫛田の挑んだ勝負によってクラス崩壊の危機にあるのが堀北クラス。結末は書きませんが、堀北の奮闘でなんとか試験は終えたものの、産まれかけていた絆を含めて失ったものは大きいです。
ただ、結局は変化を受け入れられなかった、あるいは、変化を望まなかった他クラスと異なり、堀北クラスは苦しみながらも変化を受け入れました。結果、1年生当初の頃に近いようなバラバラの状態になってしまいました。

そこをバネにして関係性を再構築して飛躍できるのか。堀北、そして、綾小路の奮戦はまだ続きます。そこに絡むのが南雲生徒会長と1年生のキーパーソンたち。今回は2年生だけの試験ということで、1人を除いて出番がありませんでしたが、更なる波乱は間違いなさそうです。

最後に、黒い綾小路。普段見せている学生っぽい綾小路の中にあるホワイトホワイトルームの綾小路。ホワイトルームなのだから白い綾小路か?白か黒かなんてのは印象の問題であって、なんとなく白が善で黒が悪ってイメージがあるだけ。一切の感情やしがらみを廃して合理性で全てを白紙にして判断でき、実行もできるのが白い綾小路。彼にとって感情は「おそらくこういうことになるとこう思うのだろう」という知識に過ぎないのではないかと感じます。それは「彼女」のことについて堀北が触れた時の独白からも窺えると思ってます。

「やめて。無理に、冷酷に振る舞う必要はないわ」
「無理?」
オレは否定しようとしたが、あえてその言葉に乗っかっておくことにした。
「そうだな。苦しい気持ちを押し殺そうとしているのかも知れない」

「堀北鈴音の選択」より

それは綾小路自身が自覚していることでもあります。あえてそうしようとしているのか、染み込んだホワイトルームでの経験から自然とそうなるのか。そして、今後、学生生活が進んで無事卒業となった際に、今の考え方が変わるのかどうか。結末はまだ先でしょうし、そこまでたどり着くかもわかりませんが、楽しみな作品です。読むのはなかなかの苦痛もありますけど。茶柱じゃないけど、自分はそれが合理的だと思っても、こんなことはできないので。いや、やろうとするけど、多分最後までいけないでしょう。

「人はオレのような考えを持つ人間を鬼、外道と呼ぶかも知れません。誰だって損な役回りはしたくない。それでも、必要なら躊躇なく実行してみせる必要がある。それはクラスを、つまり組織を守る上では避けて通れないことです」

「過去との訣別」より

ある意味、確かに綾小路はホワイトルーム生の鑑でしょう。1年のホワイトルーム生が割と自己の快楽や想いを優先している(ように感じる)のを見ると、そりゃ綾小路以上のホワイトルーム生はいないと言われても仕方ないかも知れません。知力や体力、あるいは暴力で部分的に上回ることがあっても彼らがここまで徹底できるのか。彼らはホワイトルーム生に求められることを本質的には誤解しており、綾小路だけが理解しているように感じます。

その彼が、自らが望んだ学園生活の結果、何を考え何を掴み、そして何を捨てるのか。過程も結末も楽しみです。

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