ラノベ感想:りゅうおうのおしごと!15

読書,ライトノベル,りゅうおうのおしごと,将棋,白鳥士郎

休場した姉弟子、空銀子と東京に拠点を移した内弟子、雛鶴あいを失った九頭竜八一は傷心の中、もう一人の弟子、夜叉神天衣らと新居に移ることに。そんな中、二人の消息を知るために幼馴染でもある供御飯万智に助力を頼む交換条件として、将棋の本を出版することに。筆が進まない八一に対して、万智は「缶詰」を提案する。そして、銀子不在の中、女流名跡リーグが行われ、あいも東京で新しい生活とともに挑戦を続ける…。

あらすじ

八一に相談することなく自分の前を去った姉弟子と、内弟子。後悔の念に捉われる八一は幼馴染であり、観戦記者でもある供御飯万智に助力を頼む。その交換条件として八一は将棋の本を出版することに。筆が進まない八一に対して万智は「缶詰」を提案。与謝野晶子ゆかりの天橋立にある鄙びた旅館に万智と二人で籠ることに。

一方、関東所属の棋士、山刀伐尽に預けられた雛鶴あいは、山刀伐家の居候、鹿路庭珠代と一緒に生活することに。関西将棋界に守られて育ってきたあいは東京で一人の棋士として生きる方法を学ぶことになる。

そんな中、銀子不在の女流名跡リーグが開催。女王、釈迦堂里奈へ挑戦する権利を獲得するため、女流棋士達が激突する。その中には、あいをはじめ、珠代、万智らも含まれていた。

棋士の目標と幸福論

今回のメインエピソードは八一と万智の天橋立での缶詰(逢瀬)と、珠代とあいの東京で女流棋士として生きる二人の物語です。それぞれ目標があり、そのための努力を積んで、夢を遂げたいと思っています。

しかし、珠代とあいはお互いの考え方の違いを知り、歩み寄り、今までの生き方を少し変えることことになります。そこに至るまでにそれぞれ色々足掻いて、辛い目にもあい、それでも勝者と敗者に分かれる世界。運も実力のうちとも言いますが、ちょっとしたことに影響され、それが大きな違いにつながる真剣勝負の世界。本で読むなら良いですが、なかなかこんな世界に触れることはありません。

一方の八一と万智。14巻の「感想戦」で決意を露わにした万智も今巻で猛攻を仕掛けます。出版のサポートと女流名跡リーグ最後のあいとの対戦という二足の草鞋で圧勝するために持てる力を総動員。その二つの作戦に対して、序盤から中盤にかけて有利に進めた万智の決着は…ぜひ15巻でお楽しみください。

一言だけ言わせて貰えば、万智とのパートであれだけラブコメをやっておきながら、その裏でこんなこと考えていたなんて、鬼畜ロリコン、まじ、鬼畜。
この辺りの話は今巻の話のテーマでもあると思います。今回、女流名跡リーグでも今までに登場した人も含め多くの女流棋士が登場し、一方、山刀伐さんも「名人」と「盤王」をかけた七番勝負の最中だったりと、棋士の夢とは、生き方とはという話が何度も登場します。他のことを諦めなければ大成できないという考え方もあれば、なんでも欲しいものは手に入れるという考え方もあります。

そして、貪欲なものが結局は全てを手に入れる世界。そういう意味では、若き二冠はまさに貪欲でした。
そして、その若き弟子もなかなか貪欲な動きを見せており、まだまだこの世界から目を離せそうにありません。そこにあいや銀子はどう立ち向かうのか。

でも今巻の主役は万智

異論は認めません。今までは想いを隠して八一はもちろん、清滝一門のために手助けをしていた万智が今巻ではついに本音でぶつかります。14巻の感想戦、今巻の八一との逢瀬を受けてのあいとの対局。「りゅうおうのおしごと!」にはいくつかの名対局がありますが、その中でも全く引けを取らない屈指の名対局と自分は思っています。運命の終盤、同じ言葉の語尾の変化。あれが心に深く刺さりました。

本当に罪の深い世界です。君も罪の子、我も罪の子。

深掘りされる脇役たち

上述のように、今回、脇役たちがかなり登場し、それぞれの想いが結構見えてきます。特に序盤から登場している山刀伐さんや鹿路庭さんにかなりスポットライトが当たっています。こんな考え方をしたキャラだったのですね。

こういう脇役たちをピックアップして厚みを持たせるやり方は嫌いではありません。正直、思いれる先があれこれできて困ってしまうのですが。

真の化け物の覚醒

そして、清滝一門をはじめ、関西将棋界を変えた真の化け物が東京へ。そこでももう色々影響を与え始めています。本当に行く末恐ろしい化け物です。まだ覚醒には至っていませんが、次巻以降釈迦堂さんも動くようなので、そこで覚醒してしまいそうな気がして今から恐ろしいです。

皆が幸せということが絶対にありえない世界で、どう成長していくのか。今巻で珠代に何回か「無邪気か」と言われていますが、師匠も無自覚なら弟子も無邪気で、正直、世界の敵師弟に思えてきました。

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