ラノベ感想:ひげを剃る。そして女子高生を拾う。Another side story 三島柚葉

読書,スニーカー文庫,ひげひろ,モラトリアム,ライトノベル,社畜とJK

本編は5巻で完結していますが、サイドストーリーとしてこの三島編と、後藤編の上巻が刊行済み。2023年9月には後藤編の下巻も刊行予定で、これでシリーズが完結となると紹介文に書いてあります。もう外伝も出さないということなのかと思いますが、外伝というよりはだいぶ本編寄りな感じもします。

あらすじ

沙優が北海道に帰った後、ぼんやりしている吉田。仕事に支障はないものの、休憩中などは心ここに在らずという感じ。そんな状況に苛立ちを覚えた三島ははんば強引に映画に誘うが…。

三島と吉田の区切りの物語

あまりにも大きな存在となってしまった沙優の抜けた大きな穴がぽっかり開いてしまった吉田。それを埋めるよに仕事に没頭するが、休憩の時などは心ここに在らず。当たり前ですが吉田のような状況になったことはありませんが、何かを忘れるために仕事なり何かに没頭するという経験をした人は多いかと。そういう意味では解りやすい話ではあります。

三島ではないが、正直吉田にはイラつく

本編の時からそうですが、あまり吉田には感情移入できませんでした。と言うか、イラつくこともしばしば。そんな吉田ですが、共感できたのが以下の部分。吉田が高校時代野球部にいたことは前にも出てましたが、三島にそのことを訊かれての回答から。

「ああ、結構真面目にやってた。でも、あれもハマってたかと言われると、よく分からん。野球部に入部したから、当たり前のように頑張ってた。結果を出して、部員とか、顧問とかに褒められるのが嬉しかった」

2話 「謙遜」より

三島や、あるいは橋本なんかも言ってたかと思う吉田の「謙遜」ですが、吉田にとっては謙遜でも何でもない「事実」なんですよね、きっと。まあ、そもそもなんで野球部に入ったのかよく分かりませんけど。普通、野球選手とかになりたくて入るんじゃないんですかね?野球少年じゃないからよく分かりませんけど。

そんな自分を吉田は「他人から評価されることでしか自分を満たせない、つまらない人間」かもしれないと三島に告げます。自分もそれに近い感じがします。自分よりちょっと下の世代では「自分探し」なんてものが流行った時代もあります。が、自分なんて探すものじゃなくて、なったものが自分じゃないの?としか思えない口です。

その辺の吉田観が表れているのが終盤の以下の部分。三島との出会いの頃を思い出しての話。

普通、職場という『仕事をするために来ている』場所では仕事が上手くいかなければ申し訳ない気持ちになったり、居づらさを感じたり、そういう息苦しさを覚えるものだと思う。俺自身、仕事でミスをすると誰に怒られるまでもなく、自分自身で負い目を感じていた。仕事ができない奴だと思われるのが、嫌だった。
しかし、三島は違った。
いつだって不自然なほどに自然体で、自分が他からどういうレッテルを張られようがどうでも良さそうだった。
俺は、そんな彼女をみてどこか『羨ましい』と思うのと同時に、ムカつく奴だと思った。

10話 「誘い」より

そんなわけで、吉田曰く厳しく接したことが、逆に三島から見れば自分を認めてもらえた(と吉田は理解)となるとは思ってもいなかった、と。この辺の心情の前半はよく分かります。もっとも、自分の場合は吉田と違って、そういう輩は突き放しますが。

もちろん、仕事をする上での最低限の指導はするし、やる気があるならできる限りで付き合います。が、当初の三島のような適当にやっておけばよいという考えならば、それをこちらから変えてやろうとまでは思いません。吉田がよく「責任が取れない」みたいなことを言ってますが、それこそ責任が取れませんから。そういう意味でも、吉田って個人的にはイラつく存在なんですよね。頭で考えた正しさだけで中途半端に首を突っ込んだ上に、責任が取れないからと中途半端に投げ出す。そんな風に見えてしまいます。

沙優は吉田によって最終的に救われますが、それは後藤や三島、そして神田といった存在があってこそかと感じます。特に三島。彼女の的確なツッコミがなければ、今まで同様、吉田は中途半端に投げ出していたのでは。

実は吉田に一番お似合いなのは三島説

ひげひろのヒロインが沙優、後藤、三島として、実は一番吉田に似合うというか、吉田にとって最善という変に上から視線の考え方で言うと、三島が一番じゃないかと思ってたりします。もっとも、そもそも後藤ってヒロインなのか?ってところが微妙な気もしてますけど。その辺は、後藤編が楽しみな部分ではあります。

で、吉田には三島説の理由。正直、後藤や沙優では、吉田はダメ人間になりそうという考えからきています。

なんか後藤や沙優だと、吉田のダメな部分をそのままにして、ある意味甘やかしてしまいそう。吉田はそれでいいんだという偏った視点で捉えて、ダメな意味での肯定をすることで、吉田の吉田っぽいダメな部分を助長しそう。その点、三島はそういうところははっきりとダメって言うし。

沙優にとってはもちろん吉田の存在が大きいとして、それをサポートした三島や後藤の存在もそれなりに大きいとは思います。ただ、こと吉田に関しては、かれを最初から最後まで真っ当にさせていたのは三島のツッコミがあればこそと思ってます。そういう意味では、後藤はお母さん、三島は後輩だけどお姉さんという感じ。橋本は兄ですかね。

もっとも、吉田にとって三島は必要と思っても、三島が幸せに離れそうにないので、吉田と三島のカップリングはあまり推したくはないですが。

今後

「ひげひろ」の外伝がKindle Unlimited対象になっているので、手を出してみました。本来、あまり外伝は読まないようにしています。とくにこの三島編と、おそらく後藤編は本編とかなり密接な感じで、ちょっと外伝というには近過ぎな気がします。そういう意味では読んで良かったと思ってます。もう一つの外伝であるEach Storiesはだいぶ外伝っぽいので、そちらはお好みで。

で、刊行済みの後藤編の上巻まではUnlimited対象なので、すでにKindleにダウンロードはしてあります。が、問題は下巻があるのが分かっていて、上巻を読むかということ。どうせ読むならまとめて読みたいし、では下巻がUnlimited対象になるのはいつかは分からないし…。Unlimitedで読んでしまうと、続刊を買うのをどうするか悩んでしまいます。1巻だけお試しUnlimitedの場合は、読んだ後で良ければ1巻から買うこともあるのですが。外伝ということもあってそこまでするほどでもないし、当面後藤編上巻は塩漬けの予定です。Unlimited対象外となっても、ダウンロードしてあれば読めたはずなので、下巻がUnlimitedになるのを待ちます。

実はいくつかの長いシリーズで、途中をUnlimitedで読んで歯抜けになっているものが…。そこだけ後で読み返せなくて困るのですが。かと言って、買うかというと難しい。

公式サイト

既刊感想