ラノベ感想:ひげを剃る。そして女子高生を拾う。5

読書,スニーカー文庫,ひげひろ,モラトリアム,ライトノベル,社畜とJK

時間をかけて過去と向き合う覚悟を決めた沙優は、兄と吉田とともに自宅へ。そこで母と対峙するが…。自分を見失ったJKと社畜リーマンの出会いが生んだ物語はいよいよ完結。沙優がくだした決断は…。

あらすじ

迎えに来た兄とともに実家へ戻ることになった沙優。そんな彼女を支えるため、吉田も同行することに。

「今後」を見据えてカフェでたわいない会話をしたり、過去と向き合うために「高校」に寄ったりした上で、いよいよ、母親の待つ実家へ。そこで擬似家族はどういう結末を迎えるのか。

凸凹した人たちの物語

あとがきで作者も何回か買いていたような気がしますが、この物語の登場人物たちは歪です。母親との確執で家を飛び出した沙優は肉親との愛情に欠け、自分を見失っています。その彼女を「拾った」吉田にしても自分の中の「価値観」が頭でっかちで、それを押し通すところがあります。作中で三島に指摘されていますね。後藤さんは有能そうで割と拗らせているし、三島も人に他人に見せる自分を意識しすぎの感があります。

ま、人間なんて完璧な人なんていないので、現実でも皆どこか凸凹で歪です。作者曰く、数少ない常識人枠の橋本にしてからが、吉田がやってることを知りつつ色々と手助けしてしまういい人ですし。そう言う意味では、あまり悪人がいない、いい人ばかり出てくる物語です。
強いて言えば矢口ですが、彼も悪人かというと普通の人という気がします。もちろん、やってることは褒められたことではないですが、沙優を取り巻く普通の悪い大人の代表でああいう描かれ方になっているだけで、どちらかというと吉田の方がある意味おかしいですから。

作中、親が子を選べないように、子が親を選べないという話がありますが、出会う人も選べないのですよね。出会った後にどうするかは選ぶことができますが、誰といつ出会うか出会わないかは、神のみぞ知ること。
それで人生が変わってしまうのだから不思議なものです。

沙優の成長物語であると同時に、たまたま出会った人たちがお互いに良い関係を築いていく物語だったと思います。

二人の関係はなんだったのか

そんな沙優と吉田は出会ってしまったことで終わり、始まった物語。最後もそこで終わり、始まりました。

そんな二人の関係はいったいなんだったのでしょう。もちろん、親子関係でもないし、少なくとも吉田からは男女関係でもない。年齢も住んでいた場所も違いなんの接点もない。ただ、たまたま出会ってしまった二人。安っぽい言葉で言えば「運命の二人」にも見えますが、そうなるかどうかはまた別の物語です。

現実問題、日々、全く接点のない二人が出会ったり出会わなかったりしているわけで、何かのきっかけから物語が始まったりはじまらなかったりするのでしょう。
なんとも言い表せない出会いで特別で普通な関係でした。もっとも、前を向いた沙優がそこに甘んじるかはまた別のお話。描かれるのかわかりませんが、吉田の今後はなかなか多難そうです。

全体を通じて

最終巻なので、全体を通じた感想なども。

個人的には転スラの三上さんが転生しなかったら吉田さんかな、という感じで割と近いように感じています。(転生前の)年齢は同じくらいでしょうか。そんな吉田さんは、例によってモテモテです。それに対して、これまた王道で吉田さんは鈍感です。

そんなよくあるハーレム主人公の吉田さんといえば、彼なりの鉄壁の倫理観があるので決してJKには手を出しません。相手は子供と思ってるし、後藤さん一筋ですから。そういうところは読んでいて安心できるところです。親子でも恋人でもないが、人が人を思いやる。そんな当たり前の物語に安らぎを感じてしまいます。

エピローグについて

まだ読んでない人はネタバレになるので、ここから先は読まないでください。

二人の別れの後、数年が経過してラストにつながるわけですが、こういうのを受け入れられない人もいるようですね。自分は割と好きです。もちろん、途中は気になるし、その後も気になるわけですが、そこはそれ、妄想が捗るわけで。

まあ、作者も気が向けばスピンオフとか書いてくれるかもしれません。