ラノベ感想:ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います7

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すべての社畜に贈る、理不尽をなぎ倒す(物理)スーパーヒロインの物語。公式略称「ギルマス」も7冊目。Amazonは書籍版の予約受付とKindle版の受付のタイミングが違い、Kindle版はだいぶ遅いのが難点。で、前巻は予約し損ねたのですが、今回はぎりぎり予約セーフ。

あらすじ

長期休暇も結局3日間、実家に帰省しただけのアリナ。残してあった急がないが処理しなければならない書類の山を処理すべく重い腰を上げようとしたが、なんと先輩受付嬢のアレッタがすべて処理してしまう。期せずして残業を免れたアリナとライラ。しかし、それにはアレッタの思惑があった…。

一方、アリナとシュラウドの関係を気に病むジェイド。そのシュラウドの残した「強くなりたければ四聖を頼れ」という言葉に従い、彼らが住む聖都に向かうことに。そこで待っていたのは彼らの秘密と神域スキルだった…。

職場の人間模様に注目した7巻

本作は「残業を生み出す諸悪の根源のダンジョンを受付嬢が力づくで攻略する」という作品な訳です。というわけで、その残業の現場は職場であるイフール・カウンターですが、今まではあまり描かれてはきませんでした。カウンターにはカウンター長(いわゆる課長?中間管理職)の他に何人かの受付嬢がいて、ライラが最年少の新人で、そのすぐ上の先輩がアリナであることくらいしか描かれてきませんでした。今回は主任であるスーリと、彼女と同期のアレッタという先輩受付嬢の名前が判明。さらに、アリナが残業をいくら抱えていても、先輩の誰もが手伝ってくれない事情が語られます。

地獄のランク査定

うーん、現実で置き換えると確定申告みたいな感じ?それで収入が決まるのだからどっちかと言うと会社での従業員の評価に近そうな気もしますが、雇用関係ではないことや、評価される方が書類を申請するわけではない点が違います。と言うか、前半分だけの鎧で誤魔化そうとする冒険者が少なからず存在することに、ちょっと驚きを感じます。お前らみんな脳筋かよ!

イフール・カウンターにどれだけの冒険者が来るのかわかりませんが、全冒険者を一度に査定するのは物語の都合上とは言え、ちょっと頭悪すぎな感じも。誕生月とかで分散すればよいのにと思ってしまいます。まあ、確定申告みたいなものだとすれば、一斉にやったほうがよいのでしょうか。

なお、ウィキペディアのギルますのページでも、査定に対して「確定申告みたいなもの」という解説がついてました。やっぱり、そう思うよなぁ。

地獄(地下牢獄)への転送クリスタル

今回、地獄の査定に対する切り札とも言える地下牢獄への転送クリスタル。アリナはかなり活用した結果、あまり有難くはなさそうな二つ名が増えてました。

でも、これって転送された冒険者にかなり恨まれそう。彼らは一時的に地下牢獄に送られただけで、書類さえ書けばシャバに戻れるわけです。なんかお礼参りされそうなんですけど。もちろん、処刑人たるアリナに勝てるわけはないのですが、受付嬢という表の立場がありますからね。

四聖登場

すでに剣聖と大賢者が登場していますが、今回【聖母】と【守護者】も登場。これで四聖が出揃いました。今までも幕間で登場していたりもしましたが、これからは一緒に動く存在になるのでしょうか。特に守護者は「白銀の剣」と同行する大義名分を得ましたし。

まあ、【大賢者】もどうかと思ってましたが、年若いせいか【聖母】と【守護者】もなかなかよい性格。ある意味、【剣聖】が極端な考えに走るのも無理はないかと思えたりもしたり。

イフール・カウンターが個人主義な理由

アリナ(と巻き込まれたライラ、ジェイド、ナーシャ)ばかりが残業している不思議なイフール・カウンター。その辺りの事情(後付け設定?)が今巻で明かされました。

スーリ主任の言いたいこともわからなくはないです。が、個人的には会社の仕事は個人ではなくて組織でやるものと思ってます。まあ、一筋縄で解決できる問題ではないので、その辺りの考え方は個人で違うでしょうし、これが正解というのもないとは思います。早く終わったのに他人の分を手伝って結果負担が増えるのは不公平、というのも分かります。

なお、個人の体験から言えば自分で調べない人は歳食っても自分では調べません。そういう人が個人主義にしたから自分で調べて成長する、なんてことは非現実的じゃないかと思ってしまいます。不満をもって辞めるだけじゃないかと。

アリナのスキルの秘密

今回、神域スキルについて色々と分かってきました。が、相変わらず謎なのがアリナのスキル。神域スキルを得る2つの条件のうちの「強い願い」についてはクリアできるとして、なぜ彼女は神域スキルを獲得しているのか。しかも、普通の神域スキルとは違う「全てを打ち砕く者(ディア)」を得ているのか。大賢者が何か細工をしていたのでしょうか。前巻の様子だと、べつに出自が特殊ということもなく、普通に両親がいるようですが。

なお、アリナも「冒険者」であるので、査定書類を出す必要があるはずなのですが…。こっそり、混ぜて本部に送ったのでしょうか。また、実績を元にランク査定され、そのランクによって受注できる仕事が決まるなら、冒険者になりたての頃の「処刑人」はいきなりダンジョンボスを攻略するような案件を受注できないわけで…。どうやって実績を上げたんですかね。ダンジョン低層の案件を受注した上で、それを無視して最下層のボスをどつき回して既成事実をつくりまくったのですかね。

残業とは

四聖の聖母ちゃんがアリナの地雷を踏み抜いたシーン。あ、これあかんやつと思った読者も多かったでしょう。

「”時間内に終わらなかった仕事をちょっと残って片付ける”? ナマ言ってんじゃないわよよく聞きなさい残業ってのはね‥‥!睡眠時間と心の容量(キャパ)と人生の大切な時間をすり減らしただひたすら責任感だけで社会に尽くさせる悪しき風習のことを言うのよ‥‥!」

ま、聖母ちゃんは少女だし、【聖母】という立場じゃ残業なんてしたことも見たこともないのでしょうけど。おそらくわざと句読点を抜いた長文にしているのでしょうが、鬼気迫るものを感じます(句読点を入れ忘れたわけではなく、原文のまま引用しています)。

あとは、この部分も昔を思い出しました。

どこが間違っているだの、わからないところがあるだの、必要な情報共有がなされている空間は居心地がよかった。仲間がいるという安心感が時にすさまじい力をくれると、アリナは知ったのだ。
そして逆に、たった一人で抱える残業は苦痛だということも、知ってしまった。終わりの見えない仕事を一人で背負わされるストレス、周りに人はいるのに、まるで孤島にたった一人残されたような孤独感、そういうものはあっという間に心身を疲弊させる。

アリナと違って、手伝ってくれる仲間はいなかったのですが。それなのに、ふと気づくとだれも周りにいない。そこで「たった一人で抱える残業は苦痛」だと知ってしまいました。安心感は知ることができませんでしたが。

もはや「ソロ討伐」しない件

今巻でふと現在の状況に気づいたアリナ。この手のタイトルは詐欺になるのはいつものことですが、御多分に洩れずタイトル詐欺化しています。

仕事の昼休憩は、必要に迫られない限り職場の外でご飯を食べる-そう決めているアリナにとってこの広場は、長らく何者の侵入も許さない聖地だった。しかし、ここ最近は一人でいることの方が少なくなっていた。
ジェイドがいたり、ライラがいたり、ルルリやロウ、ナーシャがいたりする。一人で過ごす聖地はいつの間にか皆と顔を合わせる場所となっていた。少し前までは、昼休みにまで誰かと喋るなんて鬱陶しいし、一人黙々と、疲れた心と体を休ませたいと思っていたはずだった。
しかし気づけば、気の知れた誰かと話して過ごすのも悪くないと思えるようになっていた。

ちなみに自分も一人で黙々と食べる派ですが、システム運用なんて何があるかわからないので基本的には朝のコンビニで朝昼分の食事を買って、昼は自席で食べてました。
でも、気心が知れたかはともかく、バカみたいな話をするのも悪くないというのは最近体験しました。コロナ禍で在宅勤務なんてしてると、それこそ一人で黙々と食事するしかないですし。家の近くに食事のできるところなんてないし、10分くらいかけて店に行って食事したところで、知らない他人がいるだけですしね。

今後の行方

例によって不穏な終わり方で。次巻はシュラウドとジェイドがアリナを奪い合う展開でしょうか(違う、そうじゃない)。

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