ラノベ感想:蜘蛛ですが、なにか?10

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異世界最大の迷宮上層部で蜘蛛に転生した「私」。Dとの邂逅で自分の正体を知ったがやることは変わらない。まずは力を取り戻すための実験に明け暮れる日々。そんな中で産み出した分体を有効活用すべく諜報活動をしてみると、反乱軍の動きが筒抜けに。討伐の手は打ったものの嫌な予感は止まらず、白は現地に足を運ぶが…。

あらすじ

何をするにも力が足りない、ということでかつての力を再現すべく実験に明け暮れる蜘蛛子さん。いざというときの保険のために分体を作る実験を繰り返しているが、まだまだ弱い分体しか作れない。
しかし、そんな分体でもそれぞれが意識を持ち、見聞きした情報は本体に全て伝わり、なんと言っても大量生産可能。これは諜報に使えるのではと試してみたら反乱軍の情報をゲット。
魔王を動かして討伐の手は打ったものの、嫌な予感は止まらず、ソフィアとリエル、フィエル、サエルを連れて反乱軍の拠点に先回りしてみるが、そこに魔族以外の影が…。

決意を固める第10巻

そして白は決断する

厳しい生存競争から解放され、魔王とも停戦した蜘蛛子さん。弱体化していた時に保護してもらった恩を返すのがとりあえずの目標でしたが、Dと会って吹っ切れたこともあってか、ついに魔王の想いに手を貸すことを決断。
今回の話のメインは反乱軍の情報を得て討伐するまでの一連の戦いですが、個人的にはその後の会議以後、特に白の決意の部分が好きです。特に以下の部分です。

私は、魔王と先生を救うためなら、この世界の人々を犠牲にすることなんて厭わない。

8.巻き込もう

誰が文句を言おうと、私は魔王が最後に笑うエンディング以外は認めない。
(中略)
私は私の救いたいものだけ救う。

終章 そして邪神となる

皆を救おうとする勇者と対極の救いたいものだけ救うと誓い、自らも邪神だと開き直る白の決意に泣きそうになります。

なお、先生が恩人という理由も出てきました。前世の話だったのですね。とは言え、先生はこれまた独自の価値観を持っているので、どう救うのかが問題になりそうです。

魔王も覚悟を決める

一方で魔王も覚悟を改めて決め直します。魔王として全ての業を背負うことを。反乱の首謀者を処断する会議でついつい漏れた本音が悲痛です。

「愚か者?どの口が言うんだか。この世界で最も愚かしいのは魔族だろうが。神に仇なし、禁忌を犯し、世界を半壊させた元凶が、賢しらに自らの生存権を主張するな。そんなもの、あるわけないだろうが」

5.会議を眺めよう

普段飄々としていて、自らの眷属であるクイーンタラテクトの1体を倒した上で自らにも精神攻撃を仕掛けた白を下心を持ちつつも懐に迎え入れ、ついでというわけではないがソフィアとメラゾフィス、さらにはラースまで迎え入れた人の良さ(魔王の良さ?)を見せる魔王アリエルの心の奥底に沈む澱み。
上記の発言の背景となる部分が作中では語られていないはずなのでよくわからない部分が多いです。ただ、これは魔王が決して魔族のためという目的では動かないという宣言のように受け取れました。

「蜘蛛ですが、なにか?」の登場人物の中でも魔王、蜘蛛子サイドの登場人物は魅力的なのですが、誰が一番好みかといえば、魔王、白、ソフィアあたりで悩みます。それに対して勇者サイドはシュンにしろ仲間たちにしろ、勇者のテンプレートでございという感じであまり共感がありません。勇者パートだけの物語を見ればまた違ってくるかもしれませんが、少なくとも魔王、蜘蛛子サイドを知っているとラースじゃないですが悪態の一つもつきたくなります。まさに理想ばかりで力がない状態。もっとも、あの世界の人属の一人が自分であったらまた違うでしょうけど。

魔族も決断する

魔族の各軍団長も、この反乱をきっかけにそれぞれ決断を迫られます。あるものは魔王への隷属を誓い、あるものは反抗勢力の暴発を防ぐべく立ち回り、あるものは引き続き隙を伺う。

偶発的に始まった魔族の内戦ですが、結果的にそれぞれの立場を決めさせて、次へ進むことになります。このなんとなく良い方向に話を進める白の力が恐ろしいです。

因果と因縁に巻き込まれた転生者達も決意する

今回、白が先生絡みで無理を通したせいで、転生者達の因果もまた絡まり始めました。先生を逃すことと、当人達を戦争に巻き込まないためという理由で村一つ丸ごと潰すという強引な作戦。それが勇者パート終盤のアサカとクニヒコとメラゾフィスの因縁につながります。

考えてみると、全ては白に繋がってしまうこの物語。シュンにはユリウスを殺したことを恨まれ、アサカとクニヒコが恨んでいるメラゾフィスにそれを指示したのも白。ソフィアやラースについても家族を失うきっかけとなったのも白。最も、ユリウスについては、オウツ国とサリエーラ国の戦いの中で、魔王と勇者と白の三すくみで彼を守ったのも白だったのですが。

これからの蜘蛛子さん

各者各様の決意を固め、物語のクライマックスに向けて動き出しました。続きがすごく気になりますが、次はユリウスに焦点を当てた話だそうで、メインストーリーは一時お休みとなります。

ここまで読んできてお気に入りの巻が6巻と10巻ですから、自分も相当ズレてるとは思います。転スラアニメ第2期第2部が会議ばかりでつまらないという感想が多いらしいですが、あれはアニメの元になったコミカライズ自体がああなんですよね。
もちろん、原作も。で、リムル陣営の俺Tueeeバトルを楽しみにしている人にはそういうのがない回はつまらないとか地味とか思えるのでしょうが、個人的には陣営間の駆け引きとか、最後の一方的展開にもっていくまでの準備とかが面白く思っているので全く気にしていないというか、もっとやれという感じです。

そんなわけで、蜘蛛子さんが他の人には思い付かないような能力の使い方をしてバトルするのもまあ良いのですが、バトルと違うところでの駆け引きとかそういう成分が多い巻が好みだったりします。まあ、バトルでも前の剣帝とラース(憤怒)との闘いは熱かったです。

そういう点で次はユリウス巻ということで、勇者側の苦悩とかそういうあたりが垣間見えそうで期待しています。少しは勇者サイドの株を上げてくれるかな。

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Posted by woinary