ラノベ感想・僕の軍師は、スカートが短すぎる~サラリーマンとJK、ひとつ屋根の下
連日の残業の中帰宅した史樹が自宅に帰ると玄関前に行き倒れのJKが。お腹が空いて動けないという彼女に食事をご馳走し、一晩泊めることに。その一宿一飯の恩義を返したいと言われた史樹は事情があって定時に帰りたいとの話をすると、お礼にとあるアドバイスをもらう。それに従うと嘘のように定時帰りを実現。そして社畜リーマンと軍師JKの奇妙な共同生活が始まった。
あらすじ
定時に帰りたい史樹と、衣食住が欲しい軍師JK穂春の利害が一致。史樹は彼女を居候させる代わりに、仕事面で困ったことを穂春に相談。父親に心理学を叩き込まれた穂春のアドバイスで問題を次々と解決、両親との死別で叔母に預けている歳の離れた妹を引き取って家族として生活するという史樹の目標に向けて順風満帆かと思いきや、穂春と彼女を取り巻く人々との触れ合いが思わぬ事態を呼び込む。
史樹は家族水いらずで暮らすという目標を果たせるのか?そして穂春達の夢の行方は? これは家族を求める人々が、そのために疑似家族を始める物語。
「軍師」に惹かれて
まずはタイトルの「軍師」に惹かれました。「軍師」との出会いは高校の頃に読んだ吉川三国志の中の、劉玄徳と「単福」のエピソードでした。
後に蜀を興す興す劉玄徳ですが、この頃は配下に優秀な武人を抱え一部の人には知られているものの、まだまだ世の中的には知られていない存在。いくら優秀な部下を抱えていても少数精鋭にも限度があり、流浪の身の上でした。
そんな劉玄徳がある日単福という人物に出会い、行きがかりで彼に軍の指揮を任せると、兵力で数倍の曹操軍を見事に撃退してしまいます。敵の策略で劉玄徳と単福は主従の縁を切ることになるのですが、この出会いが後に臥龍鳳雛と呼ばれる二人の名軍師との出会いに結びつき、蜀を興すことに繋がります。
本作では父親に心理学を叩き込まれ、どうしたら人を動かすことができるかを知り尽くした女子高生、穂春と出会うことで、社畜リーマンの史樹の人生が変わります。まるで歴史ものの軍師のように的確な策を授け、それが次々と奏功し、史樹を見る周りの視線も変わってきます。それだけではなく、穂春や穂春の仲間達の人生も変わっていくものと思います。
典型的社会人ラノベ主人公、史樹
軍師を得て生活が激変していくのが、本作の主人公である史樹です。歳の離れた高校生の妹がいますが、両親を亡くして生活基盤がなかったため、妹は叔母に預けています。しかし、勝手の家族団欒を取り戻すべく、この若さで35年ローンで中古の一軒家を買いました。叔母から妹を引き取るための条件は、この生活の場と、毎度夕食を一緒に取ることです。
しかし、頼まれごとを断れない史樹は、その損な性格から連日残業続きで夕食を妹と一緒に取るのは難しい状況。そこに現れたのが軍師を自称する謎のJK、穂春でした。困ったことを相談すると、いくつかのアドバイスで問題を解決。将来立派なコンサルになれそうです。
頼まれごとを断れないという「いい人」な面と、それによって周りの女性にモテモテで、しかも当人は全く気づかない、というどこかで見たような典型的なラノベの青年主人公といえます。最近、やたらと他人のJKと社会人が一つ屋根の下で生活するというシチュエーションの話が乱発しており、雨後の筍の如くですが、形を見れば本作もその一つになります。
なお、公式サイトのあらすじには「ブラック企業」と書いてありますが、会社関係の描写を見る限り、ブラック企業とは思えませんでした。作中にもブラック企業とは書いてなかったかと思います。史樹が社畜になっているのは損な性格と、先輩社員に目をつけられていたという事情もあるので、なんでもかんでもブラック企業扱いはどうかと思うのですが、それは自分の社畜根性のせいで、そういう状況を改善しようとしない企業はブラック企業ということなのでしょうか。
家族を取り戻すために、別の家族を作る物語
そんな順風満帆に見えた史樹と穂春の生活ですが、とある出来事をきっかけに自体は急転します。先に書いた劉玄徳と単福のように、敵の放った一手により、二人の共同生活は危機に瀕します。
しかし、そこで立ち上がらなければラノベ主人公ではありません。今までの軍師の教えを元に史樹は一か八かの賭けに打って出ます。果たして、その結末は?というところが今巻のクライマックスとなります。まあ、ネタバレすつと2巻が出ているので、なんとかなるのは当然かと思いますが、どういう一手に打って出るのかは読んでのお楽しみということで。ただ、史樹の孤軍奮闘ぶりはなかなかのものでした。
急速に消費されつつある「赤の他人の社会人とJKの共同生活」ものの一つではあるので、今後、同種の作品に埋もれないための差別化をどうするのかが難しいところかと思います。特に、今まさにアニメ化されている某作品との類似部分がたくさんあります。正直、個人的に惹かれている軍師要素部分以外は、自分にとって何匹か目のどじょうであることもあってかそれ程心にくる部分がなかったのも事実です。
本作の場合、立ち塞がる問題を穂春の策によってどう解決していくかという部分で以下に差別化できるにかかっているかと思います。
その本作のテーマに「家族」というものがあるかと思います。史樹の家族の範囲はやたらとでかいので、もはや穂春も家族ですし、穂春の仲間達も家族になりかねません。当然、本来の家族との摩擦が出てくると思うのですが、そこを単なるハーレムにしてしまうのか、別の家族の形に行き着くのか。
気になる点
「辞表」は従業員が書くものではないという指摘をいくつか見ましたが、まあ確かに。とはいえ、そこはどうでも良いです。登場人物のセリフの中の話なので、彼の誤解というのもあるかもしれません。
最後のオチである人物の不正が発覚しますが、まあ、あの辺りも普通はそういうことができないようになってはいるので、ちょっとどうかと思います。調達の三権分立というのは基本中の基本ですから、そこそこの規模がありそうなあの会社で一従業員があんなことができるというのは、会社として問題ありです。一応設定的に中小企業となっていたかと思いますが、山形に分室があって、ソシャゲを開発、運営し、芸能界とコラボする企業が中小企業?とは思います。ま、どこからが大企業でどこまでが中小企業なのかという話なのでそこも良いでしょう。主たる読者はそこまで気にしないでしょうし。ただ、辞表云々よりはこちらが気になりました。
人によっては、ことごとく的中する穂春の策に、ご都合主義を感じるかもしれません。まあ、そういう作品なのだから、そこを指摘すると話にならないとは思います。実際、理論ではそうだけど、現実にはそううまくはいかないよ、と社会人経験があれば思うでしょう。
そういう部分を、ご都合主義に見えないようなリアリティを出していくのか、それとも、開き直って問題の数々を穂春の策でバッタバッタと薙ぎ倒して爽快感を演出するのか。今後の展開をどうしていくのかが気になります。
まあ、ご大層に〇〇効果と言っている点と、てきめんすぎる効果の大きさを除けば、やっていることは社会人として当たり前というか、これくらい考えて仕事してよと思ってしまうことではあります。いや、本当に。まあ、実際にできない人が多いのも事実ですけど。
仕事の話の部分もよくできていると思います。ここについては、表面的で現実離れした某作品よりも「うんうん、あるある」と頷ける部分が多いです。まああちらは設定自体がかなり強引な面があってツッコミどころが多いのですが。
ただ、別のシステムを流用って著作権的に多分まずいです。作中の描写だと、システムの受託開発を受けているように受け取れましたが、その場合は通常、そのシステムの著作権は発注元にあることが多いので関係ないシステムに安易に流用はできません。もちろん、著作権は渡さない契約だったり、システムの流用といってもよく使うライブラリ部分を流用しただけで、そのライブラリ部分の著作権は史樹の会社が保持したままであるとか、色々、理由は考えられます。
細かい揚げ足取りをしようと思えば、色々穴が見えてしまうのが、現実世界の会社を舞台にしたラノベの問題ではあります。そこを描きたいわけではないと思うので、気にする方がおかしいとの指摘はごもっともですが、まあ、ちょっと小骨が刺さったような感覚はあります。
最後に一言、「定時帰りの社畜なんて社畜じゃないw」
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