読書感想:マツリカ・マジョルカ

読書,ミステリ,学園,小説,相沢沙呼,角川文庫

Kindle Unlimtedにて。相沢沙呼氏の作品は、TVドラマ「霊媒探偵城塚翡翠」を見て興味を持ったのをきっかけに原作を読み、デビュー作の午前零時のサンドリヨンを読んだ程度。最近、Kindle Unlimitedを契約しているのだからもっと活用しようとUnlimited対象作品をよく読んでいます。本作もUnlimited対象であることを確認して読みました。本当は購入した方がよいのでしょうが。

あらすじ

高校1年生の柴山祐希はある日、廃墟のようなビルから飛び降りそうな制服姿の女子高生らしき少女を見かける。勘違いして彼女のところに駆けつけてみたものの、マツリカと名乗るその少女は祐希の通う学校を観察し、学校の怪談である原始人を調べていると言う。はんば強制的にその原始人調査にまきこまれる祐希だったが、原始人の意外な真相に至る…。

「原始人ランナウェイ」を含む、4本の短編を収録。

不思議な雰囲気の少女と出会った少年の成長

謎の少女に振り回されつつ事件を解決するという流れはmedium/invertや午前零時のサンドリヨンと同様。ただし、マツリカと祐希は別行動。祐希が主に情報を集め、それに対して自室に籠るマツリカが推理を披露するという流れ。殺人事件とかではないので、その辺りが苦手な方も安心。ミステリ風味な思春期男女の他人との関係性に思い悩むお話。

4つの短編によって、祐希やマツリカの背景がすこしづつ明かされて、全体として主に祐希の成長を描いているように感じます。ただし、この巻だけではまだまだマツリカの謎は多く、祐希の事情がすこし明らかになって、彼の心に溜まっていたものがすこし開放されたかな?という程度。

medium/invertのように読者への挑戦みたいなものがあるわけでもなく、事件性も薄いので気楽に読める作品。

ズレた少年、祐希

最初に祐希がマツリカと出会うきっかけとなったシーン。彼女が飛び降りようとしていると勘違いした祐希が抱いた感想が「そんなところから飛び降りたら、きっと死体が大勢の生徒たちの眼に付くよ。それを想像して恥ずかしく思わないわけ?」というもの。

普通、自殺するときに死んだ後の自分の遺体が恥ずかしいかどうか考えるのかな?という点でちょっとズレた主人公だなと感じました。その辺は最後まで読むとなるほど、と。あまりネタバラシになるようなことは書きたくないので、匂わせ程度にしておきます。

そんな彼は、マツリカにいいように使いっ走りにさせられながらも「僕なんかが誰かの役に立つんなら、それでいいかなって。自分を必要としてくれるのは、素直に嬉しい。」なんて思っています。実際のところ、本作は祐希の視点でしか語られないので、マツリカがどう思っているのかなんてわかりません。つまりは、これは祐希の自己満足にすぎないのですが。

この辺りは自己肯定感の引く主人公あるあるで、ブラック会社に引っかかってしまうパターン。彼の将来が少し心配です。

あまり見えてこない、マツリカ

一方のマツリカの素性については、あまり明かされません。問題の廃墟ビルに本当に住んでいるのか、祐希となんらかの関係があるのかも不明。もちろん、本名も不明。

仕方ないので、自称している名前から探ってみるしかありません。マツリカがなにを意味するかわかりませんが、そのまま変換すれば「茉莉花」で、これはジャスミン(ペルシア・ジャスミン)のこと。白い茉莉花の花言葉は「愛らしさ」、「優美」、「官能的」、「好色」など。彼女に愛らしさはあまり感じませんが、優美や官能的は作中描写からそれっぽい感じはします。

どこか世捨て人のようでいて、それでも人間を観察していると祐希に告げるマツリカ。あまり底を感じさせない不思議な感じは、相沢相沢沙呼作品のヒロイン共通な感じ(って言う程の作品を読んでいるわけでもないですが)。

今後、もう少しマツリカの素顔が見えてくるのか、楽しみなところです。

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