ラノベ感想:本好きの下克上 第五部 女神の化身IV
サブタイトルつけると長すぎるので外してます。正しくは 本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身4」です。短編集や外伝を除いた本編では通算で25巻目になります。
今回は貴族院が終わり領内での祈念式の時期の話。あまり良くない予兆が端々に感じられます。
あらすじ
貴族院が終わりエーレンフェストに戻ったローゼマインたち。しかし粛清の影響で貴族が減り、体制もまとまらない中、ローゼマインは神事や平民との交渉で大忙し。状況の変化の中、結束していた領主一族と領主候補生たちの関係にも少しずつひびが入り始める。そして側近たちもそれぞれの主人のために行動を開始する。主人が描く未来のために。
そんな大変な状況でも領地のための儀式や商談は待ったなし。ローゼマイン、ヴィルフリート、シャルロッテは分担して領地を回り、印刷事業拡大のためのグーテンベルクの出張も行い、ついでに末弟メルヒオールが次代の神殿長になるための神殿入りと教育も。そこへさらに、ローゼマインの側近ハルトムートの婚約者であるダンケルフェルがーのクラリッサが護衛騎士一人を連れただけで許可も待たずにエーレンフェストに来てしまう。
領内貴族の動向と怪しい動き、領主一族内の不信の芽と、エーレンフェストに試練が迫る。
派閥抗争と不穏な予兆の第五部4巻
領主候補生間の不和
前巻最後の書き下ろし短編でヴィルフリートがだいぶ不満を溜め込んでいたようですが、エーレンフェストへ戻った途端に筆頭側仕えのオズヴァルトが辞任。粛清でヴェローニカ派を一掃したものの、今まで苦渋を舐めてきたライゼガング派(の中でも過激派)から見ればジルヴェスターやヴィルフリート、シャルロッテといったローゼマイン以外の領主一族も半分敵扱いという状況で孤立した領主派とローゼマイン派の対立のような状況に陥ります。ローゼマインには一切その気は無いのですが。神殿に預けていて引き取ったというストーリーがかえってジルヴェスターらへの不信につながる事態に。外に出ている聖女伝説だけ見ればローゼマインは悲劇のヒロインで、ヴェローニカは悪役、ジルヴェスターといった領主一族はその手下となってしまいます。
ローゼマインとエーレンフェストを取り巻く困難の元を辿ると全てがヴェローニカに行き着く勢いです。もっとも、ヴェローニカと関係なく貴族社会の特権意識や神殿や平民へのリスペクトのなさといったあたりも問題ではあるので、ヴェローニカだけの問題でも無いのですけど。
シャルロッテやメルヒオールはこの状況でもローゼマインを支えようと頑張りますが、ローゼマインを担ごうとするライゼガング派過激派から見れば、彼・彼女らすら排除対象なのですから、国と国でも国内の派閥でも、人は分かり合えないのだな、と感じます。
次世代の台頭
そんな中で明るい兆しを見せ始めたのが、過去の経緯に捉われない世代の台頭です。その筆頭はローゼマイン側近達ですが、彼ら以外でもヴェローニカ派対ライゼガング派の対立に捉われない存在が生まれつつあるようです。もちろん、担がれそうになっているローゼマインにしろ、ヴェローニカ派に命を狙われた経緯はありますが、派閥抗争そのものには興味ないし、そもそも立場の違いなだけでヴェローニカ派もライゼガング派も貴族としての考え方については変わるものでもありません。
そこで動き始めたブリュンヒルデ。元々はライゼガング派だったものの、ローゼマインや筆頭側仕えのリヒャルダの影響もあって新世代の中心になりつつあり頼もしいです。
エーレンフェストの貴族の中でも、キーゼ・キルンベルガとか「領主には目標を決めて進む意思と重要な場面で選択してその責任を負う覚悟が必要」と、かなりしっかりした意見を持っているようです。息子のアレクシスがローゼマインの3つ上とのことで、ジルヴェスターと同世代か少し上くらいなのでしょうか。だいぶしっかりした方です。今の政治家にも聞かせてやりたいくらいです。中立派なので情報は大事なのでしょうが、かなりしっかりとした情報源をお持ちのようです。最近情報収集をサボり気味という自覚のあるヴィルフリート側近よりも客観的で詳しい情報を持っているようです。
ハルトムートとクラリッサ
ローゼマインの側近たちにも動きがある中、騒ぎの中心となりつつあるのがハルトムートと、その婚約者クラリッサでしょうか。今巻ではクラリッサが無断でダンケルフェンガーからエーレンフェストにやってくるという暴走ぶりが騒ぎになります。ハルトムートは色々根回しした上で計画的に暴走しますが、クラリッサは考えなしの猪突猛進で暴走するようです。上級文官なのですから、それなりに判断できるはずなのですが…。アンゲリカでもそこまでしないよ(失礼)という暴走ぶりは見ているだけなら楽しいのですが、周囲は大変です。
久々の神殿と下町
エーレンフェストに戻ったため、久しぶりに神殿と下町の面々が出てきます。もう少し出るかと思ったらちょっと少なめなので、せっかくの神殿成分と下町成分の補充も消化不良な感じです。エーレンフェストに戻ったとは言え、話の中心は貴族間の思惑ですから仕方ありません。
でも、もうちょっと欲しかったな…。そんな中でも下町も世代交代。いつの間にかカミルも成長していて、時の流れを感じます。まあ、ローゼマインだって裾を直すくらい成長しているのですからね。
ヴィルフリートの行く末は…
冒頭でも触れましたが、前巻末では小さな不信の芽かと思われたヴィルフリートの他領主候補生への不満と孤立が、巻末短編書き下ろしではだいぶ大きくなってきているようで、すごく心配です。白の塔事件時点ではまだまだ分別が足りない年頃で仕方ない部分もありましたが、ローゼマイン気絶事件以後は悔い改めて頑張ってきていたのを読者として見てきただけに、少し残念な流れ。生来の坊ちゃん気質とヴェローニカの教育の賜物か。三子の魂百までと言いますし。そこまで行くともう、呪いです。
ヴィルフリートとローゼマインの関係性はある意味、ジルヴェスターとフェルディナンドのそれに似ているのですが、後者は一貫して良好なので、何が違いをもたらしてしまったのか。
そんな中で素直に育ってそうなメルヒオールや、兄達には不信の眼を向けられているニコラウスは、そのままでいて欲しいところです。シャルロッテの不満も分かるのですが、ちょっと実兄のヴィルフリートに冷たくない?とも感じます。自分のせいでローゼマインが2年間眠りにつくことになった負い目のせいでしょうか。ローゼマイン第一過ぎて、兄や父への態度がやや冷淡に見えるのが気になります。
今回、ゲオルギーネの暗躍が見られるかと思ったら、ある意味エーレンフェスト内の内輪揉めに終始してやや期待外れというか、思っていたのと違う展開でした。外敵の襲来に再び領主一族がまとまるのか、それとも亀裂が決定的に深まってしまうのか。楽しみなような、怖いような。
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