ラノベ感想:え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか? 

読書,お仕事,ライトノベル,ワンオペ解雇,下城米雪

SNSのXのおすすめポストに表示されたコミックの宣伝ツイートで興味を持って無料公開されてたコミカライズを気に入りコミックを購入。その後、原作にも手を出してしまいました。略称は「ワンオペ解雇」。
11月末に読んだ本ですが、10月から12月までまさにプログラミングの講師をしていて忙しくて感想を書いてる暇がありませんでした。

あらすじ

大手企業の社内システムを1人で運用していた佐藤愛。しかし、社長交代の際の人員整理のため解雇されてしまう。途方に暮れていたところをたまたま出会った幼馴染の鈴木健太が立ち上げた会社で働くことに。その仕事は「真のプログラマ塾」講師。立ち上げたばかりの怪しい名前の塾にやってきた訳ありな人たちとの交流から、やがて前職の会社も巻き込んだ騒動に発展していく…。

コスプレSEはホワイトな職場の夢を見るか

物語の冒頭はよくある追放系を現代の企業に置き換えた感じで始まる本作。1巻ではそんな追放されたが優秀なSEである佐藤愛と、彼女を講師とする「真のプラグラマ塾」の受講者との交流から、なぜ仕事をするのか、どうしたらよりよい生活を送れるのか、といった話になっていきます。

一方、その裏では彼女を追い出すきっかけとなった社長の暗躍と対決も描かれますが、まあ、そちらは正直取ってつけたような話。ただ、そこに至るまでのクライマックスは、それはそれで胸熱展開でした。

現実に存在したらそりゃ解雇になるよね

主人公の佐藤愛はとあるきっかけから就業中に会社でコスプレ衣装を着て仕事をしているような人物。極めて優秀で、自作の社内システムを現在では1人で運用している。一応、会社は大企業という設定なので、おそらく服装についても何らかの決まりがあるはず。なので、コスプレ衣装、しかもちょっとエロいサッキュバス・コスをしてたら、そりゃ目をつけられるのは仕方のないところ。まあ、それでいきなり解雇予告は問題ですが。

不幸だったのは、新しい社長は社員は置き換えが可能な歯車といった感じの考えの持ち主であったこと。そして、とうの彼女の作った「オルラビシステム」は彼女以外には理解できない代物であったこと。この辺、よくある主人公の才能や果たしていた役割を周りが理解していないために追い出したことで破綻してしまう「追放物」のテンプレ。

ただ、ちょっと違うのは彼女が「真のプログラマ塾」の体験受講者の抱えた悩みを、時に破天荒に、時に親身に解決していくという物語。自分もとある企業の情報システム子会社で働いていたので、ちょっと身につまされてしまいました。

オルラビシステムとは?

1巻のキーワードとなるのが「オルラビシステム」という佐藤愛が作った業務システム。まあ、とにかくすごい芸術的な代物として作中では扱われています。このシステムによって8割の業務が自動化されたものの、残り2割の業務を処理するには管理者である佐藤愛が必要、らしい。

その彼女が辞めた後は、4人のシステム管理者が割り当てられたが、2人はすぐに辞めてしまい、残る2人も結局は辞めてしまうという曰く付きのシステムという設定になっています。

業務システムと言っても、いわゆる基幹システム(人事管理とか販売管理とか在庫管理とか)ではないよう。元々あったそれらの独立したシステムが連携していなかったのを、自動的に連携したというシステムのようです。特にそうだという話は出てきませんが、RPA(Robotics Process Automation)が近いでしょうか。

なお、この2割が動かないことで会社自体の売り上げにも影響が出るような物らしいです。

現実的にはどうなの

まあ、この辺りはそういう設定というものであまり深く突っ込んでも仕方ないのですが、実査の業界の人間からすればちょっと荒唐無稽な話です。

話の設定上、オルラビシステムはとてもすばらしいもので、それをつくった佐藤愛も天才的な技術者という扱いになっています。
まあ、この辺は業界内でも立ち位置や仕事の仕方によって違うのでしょうが、あまり同意できない部分ではあります。と言うのも、主人公以外が誰も中身を理解できず、動かすだけで4人いても回らない、しかも担当者が次々と辞めてしまう…こんなの現実に存在したら、素晴らしいと言うよりはかなりヤバイです。

中身を誰も理解できず、動かすこともできないと言うことは完全に属人化していて論外ですし、それを誰も理解できないようなシステムなんてシステムとしての存在価値がありません。まあ、話を面白くするために盛りに盛ったのでしょうが、IT業界がこういうところだと思われるのはちょっと困ったものです。

本質は人間ドラマ

そんなわけで、一見追放ものでお約束のざまぁ展開もありますが、自分がきにいったのは主人公と受講者たちのふれあいの部分です。何かを変えたいと思っている、どうにかしたいと思っている人の背中を押してあげる話。ちょっと前にやってたTVドラマ「転職の魔王様」に通じるところもあるような。そう言う点では良質のお仕事作品になっています。

ちなみに自分自身はどちらかと言うと鈴木健太タイプ。自分から動かない人にはあまり世話をしたくないが、自分で動こうとしていれば色々世話を焼きます。なので、健太が愛に「考え方が古い」と言われたあたりはちょっと反省しました。ま、自分のやり方を変えるつもりはないですけど。

新社長は実は世間そのもの?

作中で愛を追い出す新社長ですが、悪役扱いになってます。まあ、主人公を追い出したわけですから。もっとも、いきなり解雇はともかく、愛にも問題があるのも確かなのですけど。

作中では技術を軽視し、技術者に寄り添わない経営者として描かれており、その姿勢から最後にしっぺ返しを喰らう羽目に。これだけみたら、追放者で主人公を追い出す「勇者」とかなのですが。

ただ、現実の技術者の視線から言えば、世の中一般の「世間」様はだいたいこんな感じですけどね。一部の突出した「天才」は誉めそやしても、普通の技術者なんかには目もくれない。煽てやればほいほいとしすてむつくってくれるとでも思ってるあたり「新社長」と変わらないかと。
新社長ざまぁとか言ってる側が現実でしっぺ返しをくらわないとよいですね。

ざまぁ展開というより、報われたのがうれしかった

最後、「新社長」との訳のわからない対決になりますが、かなり冷静さを欠いています。それでなにかが良くなるわけでもないのに。

それはともかく、ざまぁ展開なわけですが…正直、主人公を虐げた社長に天罰覿面でスカッというよりは、彼女の頑張りが報われたことに涙しました。その辺はこれまでの経験や年齢とかが影響すると思いますが、悪い奴が罰せられるところが見たいというより、努力した人が報われて欲しいと感じてしまいます。

なんか今時は正義を振り翳して「悪い人」をぶっ叩くのが流行りな世の中になってしまいましたが、そういうのが読みたい心境では今はないようです。

この「新社長」のような理不尽なことってのは多かれ少なかれあります。あるいは最近は災害も多いですが、それも理不尽。でも、理不尽だと喚いていても何もならないのでやるしかなかったりするわけです。なんか性別も年齢も違うのに、いっしょになって泣いたり笑ったりしてました。そんな作品です。

公式サイト

既刊感想