ラノベ感想:処刑少女の生きる道6-塩の棺-

読書,ライトノベル,佐藤真登,異世界

この世界に迷い込む異世界人を極秘裏に殺す処刑人メノウは任務で出会ったトキトウアカリを殺すために共に旅をすることに。長い旅を経て最終目的地にたどり着いたメノウはアカリとともに師である導師”陽炎(フレア)”との決着をつけるための闘いに挑むが、そこに”主”が介入してくる…。

あらすじ

数々の困難を乗り越え、アカリとともに導師”陽炎”に対峙するメノウ。アカリの力を得て”陽炎”を圧倒できるはずのメノウだが、”陽炎”は互角以上に対峙してくる。

そんな中でも聖地の司教、エルミカは障害を除いて聖地の復旧を進め、それを阻止しようとしたモモは囚われてしまう。しかし、全ては”主”の掌中に過ぎなかった。

1000年越しの帰還計画実現のため、”主”がついに動き出す。

そして後継となる第6巻

ここまでの道のりなど

6巻かつ第1部完ですが、ここでは初めて紹介なのでかいつまんでここまでの流れを書いておきます。

最近はなろう系と呼ばれるWebの投稿サイトから出版される作品が増えていますが、本作は2019年のGA文庫大賞の中で一番優秀な作品に贈られる大賞作品となります。では、過去13回の受賞作にどんな作品があるのかといえば、「大賞」は第4回の「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」と第11回の本作のみ。その次の金賞ですら4作品。ほとんどが優秀賞止まりという狭き門です。残念ながら本作以外のGA文庫作品を読んだことがないため受賞作のレベル等はわかりません。「ダンジョンに〜」もTVアニメとコミカライズを見た程度ですし、それも全ては見ていません。

寄り道は置いて本作の話です。

本作も最近よくある異世界からの転生がテーマの作品です。もっとも、この手の作品は元の世界で死んで転生するものと、元の世界から消えて召喚されたり迷い込むようなもの(元の世界から言えば神隠しとか行方不明扱い)がありますが、本作は後者です。なので、厳密には転生ではないです。

しかも、主役になるのは転生者ではなく、その転生者を極秘裏に殺す処刑人であるメノウです。この世界に現れる異世界人は、その時点で特殊な力を持ちます。転生ものによくある設定ですね。
他の転生ものではその力を利用して異世界で無双することが多いですが、そうさせないために異世界人を極秘裏に殺すのが処刑人になります。異世界人のことは公式には伏せられており、処刑人についても噂でしか認知されていない完全に裏社会の人間です。もっとも、表向きはこの世界を牛耳る「神官」の中の一部がその役割を担います。メノウもその一人となります。

そんなメノウが任務で訪れたある王国。異世界人の召喚は禁忌ですが、それを破って召喚された異世界人の処刑のために訪れたメノウは異世界人の1人を速やかに処刑後、もう1人「本命」の異世界人が居たことを知り王宮に潜入。そこで異世界人”トキトウアカリ”と出会います。

しかし、アカリの持つ能力は強大で迂闊に殺すと大災害を起こしかねないことが判明。”安全に彼女を殺す”ために、情が移らないように異世界人との深い接触を避けてきたメノウと、やたらと瑪瑙に対して距離が近いアカリの長い旅が始まる…、という物語になります。

その後、1巻から5巻まで旅を続け、異世界人、この世界、メノウ、アカリ、”使徒(エルダー)”といった数々の謎が提示されては少しずつ解き明かされ、世界の敵である”人災(ヒューマンエラー)”たちとの敵対や共闘を経て、いよいよ本拠地”聖地”に乗り込んで処刑人の師である導師”陽炎(フレア)”との対決…というのが5巻までの超大雑把な流れです。

作品の雰囲気自体は割と重いです。あと、正直少し読みにくい点もあります。紙の書籍派の人も、まずは電子書店等のサンプル版を読んでみることをお勧めします。とりあえず言えるのは主人公が強大な力を使って無双する作品ではありません。ヒロイン?であるアカリは割と強大な力を持っていますが、基本的には足手まといですし力の制約も多いです。
そんなわけでメノウの戦いは常に格上との絶望的な戦いです。なんとなくこういう作品あったなと思い浮かんだのが秋田禎信氏の「魔術士オーフェン」シリーズです。あの頃のラノベといえば「フォーチュンクエスト」とか「スレイヤーズ」といったほんわかしてたり明るい作品が多いイメージなのですが、その中でも雑にいえば「暗い」作品だったのが「魔術士オーフェンはぐれ旅」シリーズでした。シリアス寄りである「ロードス島戦記」と比べても、イメージ的に「暗い」感じが濃厚でした。ロードスならどれだけ絶望的でも最後は主人公等がなんとかしてくれそうですが、オーフェンは本当に太刀打ちできるのか?と絶望を感じますから。状況も悪くなる一方ですし。

memo

もっとも「スレイヤーズ」も長編の方は段々と暗い雰囲気になっていくのですが。「スレイヤーズ」の短編やオーフェンの短編「魔術士オーフェン・無謀編」シリーズは馬鹿みたいに明るい作品ですけど。

単純に作品イメージだけではなく後継者というキーワードがあります。本作の場合、主人公メノウは処刑人の師である導師”陽炎(フレア)”に拾われ、処刑人としての技能を叩き込まれます。その結果、裏の世界では”陽炎の後継者(フレアート)”と呼ばれるまでになります。
一方の「魔術士オーフェン」の主役オーフェン(キリランシェロ)も孤児であり、教師チャイルドマンから暗殺の技術を引き継ぎ”鋼の後継者(サクセサー・オブ・レザー・エッジ)”と呼ばれます。

どちらもそういう裏の顔を持ちつつ、表では普通の神官とかチンピラ魔術士を装っています。

そして、世界設定。単純な善悪とか国同士がどうこうという以上に幾つかの勢力に分かれ、それぞれが時に妥協したり、争ったりしている感じが似ているように感じます。

また、どちらも世界設定に細かいこだわりが多いのです。ロードスも色々設定は多いですが、あれは元々がテーブルトークから来ているのでなんとなくわかるし、広く浅いイメージです。が、オーフェンとか本作は何か細かいこだわりにあふれています。まあ、オーフェンに比べれば本作はまだまだとは思いますけど。

そんなわけで、「魔術士オーフェン」の特に長編のはぐれ旅シリーズの方は人を選ぶところもある作品で、同時期の他作品ほど知名度が高くないイメージがありますが、ハマる人はハマる、今なお一部の人の人気が高い作品です。kindle unlimitedで旧シリーズの新装版と新シリーズが全巻読み放題になっているようなので、利用されている方で興味のある方は読んでみてください。

そして”陽炎の後継者(フレアート)”へ

ようやく、今巻に戻ります。

前巻と上下巻と言っても過言でないので、いきなりメノウと導師”フレア”の闘いから始まる今巻。正直、上下巻として同時発売して欲しかったくらい待っていました。
メノウ側が圧倒的に有利なはずの戦いですが、そこは導師”陽炎”ですのでいくつも切り札を持っています。詳しくは書けませんが、最後にあんな手を打ってくるは、ナニを破壊するは、もう大暴れです。スピンアウトで”陽炎”編を出してもらいたいくらい。

今巻ではそんな”陽炎”のここに至るまでの断片も取り上げられているので、そちらもお楽しみに。もちろん、悪党で油断ならない奴なんですが、妙に憎めない。”陽炎”だから仕方ないでなんでも済んでしまいそうな感じがします。もちろん、人によって受け取り方はさまざまでしょうけど。

そんな”陽炎”とは正反対なメノウ。正反対であるが故に「清く正しく強い」悪人である処刑人としての”陽炎”の後継から、真の”陽炎”の後継となり、その意志を継ぐこととなります。

そうなるに向けての様々なこれまでの謎とその背景に、新しい謎が増えてどうメノウが決断するのかをお楽しみください。

公式サイト

2021/8/16現在、TVアニメ告知PV動画が自動的に流れますのでご注意ください。
また、最新6巻の情報が現時点で掲載されていません。来年アニメ化され、久々の大賞受賞作とか力を入れている割には8/12発売の新刊が「発売予定」のまま更新が滞っているのは如何なものかと。