ラノベ感想・俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていた

読書,ファミ通文庫,わるいおとこ,悪徳領主,異世界

ゲームを攻略した特典として、そのゲームの中で天下を目指すことに。しかもゲーム開始時に滅びる悪徳領主として。 頼りは己の戦略とゲームの「システム」のみ。 
中世ヨーロッパ風ファンタジー世界を舞台としたストラテジーゲームでの天下統一を目指して「俺」の成り上がりが始まる。

あらすじ

ネット上の戦略ゲーム(SLG、ストラテジーゲーム)をゲーム内トップの成績で攻略した「俺」にメールが届く。特別な栄誉を与える云々の怪しいメールだったが、気づいてみると自分がゲームの世界で開始直後に敵国の奇襲で殺される悪徳領主になっていた。
悪徳領主の悪徳ぶりは想像以上で、上層部は腐敗、民心は離れ、領兵も使い物にならないレベル。しかも、明日には敵国の奇襲がある。こんな「詰んだ」状態で、頼りになるのは自分だけがゲームの「システム」を使えることと、特典で与えられた特別な武器のみ。
システムによって自分だけが経験値を貯めることでレベルアップができ、それによってパラメータを上げたり、スキルを獲得、利用できる。また、他者の能力を確認することで、地位にそぐわないものや、埋もれた人材の発掘もできる。もちろん、実戦経験もないが「攻撃」コマンドを使うことでそこらの一般兵よりは強い。そして、何よりゲーム内の戦略はそのまま使える。

SLGゲーマとしてゆくゆくは天下統一を果たすため、まずは生き残りをかけた戦いが始まる。

我が青春のSLG

当時はシミュレーションゲームと呼ばれ、今はシミュレーションの多様化に伴い、ストラテジーゲームと称される戦略ゲーム。例えば、現代大戦略に始まる大戦略シリーズや、光栄(現コーエーテクモ)の三國志や信長の野望シリーズといったゲームにはだいぶハマりました。その後、リアルタイムストラテジーなんてものが流行った時期もありましたが、あのてのは苦手で、Civilizationやその流れのゲームをよくやってました。
もちろん、Wizardryとかブラックオニキスとかのロールプレイングゲーム(RPG)もやりましたが、主な時間はSLGに費やしていた青春時代でした。おかげでろくな大人になれませんでしたけど。

今も昔もゲームの主流はアクション系やRPG系で、SLGは一部の物好きが遊ぶもの感が漂います。多くの異世界転生物もレベルアップしてスキルを獲得して、どちらかといえばRPG的かと思います。

本作もそう言う点でやはりRPG的世界ではありますが、国盗り要素もあり、シミュレーションRPGの世界観でしょうか。本来のSLGには武力、知力といったパラメータやスキルのようなものはあっても、レベルアップという概念はないですからね。一部のゲームで年齢と共にパラメータが上昇し、ある時から下降するという物はありますけど。あとはアイテムでパラメータを強化するのはありますし、本作でも一部のアイテムや魔法でパラメータの補正が可能です。

そういう個人ものの異世界転生物もまあ好きなんですが、国とか経営とか国盗りの要素が入ったものはもっと好きです。例えば、転スラこと「転生したらスライムだった件」なんかは、だいぶ国作り、経営の要素や外交の要素も入っています。もっとも、あれはリムルが強過ぎて駆け引きも何もないのですが。

気になる点

ゲームの中の世界に取り込まれるという形の一種の異世界転生者にありがちなのが、平和な日本の常識、倫理観と転生先の世界の常識、倫理観とのギャップです。多くの転生者は普通の一般人だったので、大抵の場合殺人には忌避感があります。本作の場合、割とあっさりとその辺は乗り越えるというか、どうも一切気にしていないようです。

まあ、実際その世界に放り込まれればそんな綺麗事を言っていられないのは分かります。そんなこと言っても、この世界で成り上がっていくためには敵味方に数多の死者を作っていくことになるので。とはいえ、少々あっさりし過ぎかなと言う感はあります。まあ、そこをメインにするような話ではないので、あっさりと済ませてるのかもしれません。

ただ、ストラテジーゲーム愛好者が「戦争好き」というレッテルを貼られて虐げられてきた歴史を知っているので、今は良くも悪くも時代が変わったのだな、と感じます。

それはさておき、全体の描写はやや淡白な感じがします。いくつか、読書メータやAmazonに上がっている感想を読後に確認しましたが、内容が薄いのではないかといった感じのものが見られたように思います。そのものズバリそう書いてあったわけではなく、自分はそういうことを言いたいのかな、と受け取っただけですけど。

その原因として、1巻で扱う分量としては盛り込み過ぎかな、と。最初に奇襲をかけられて撃退するまでが1巻、補給基地で人身掌握するまでで1巻、城の陥落と奪還戦で1巻の計3巻くらいの分量が欲しい気がします。
まあ、これやると間違いなく大作になってしまうので、編集サイドとしてはゴーサイン出さないのですかね。
まあ、老害の戯言ですので、若者が期待するスピード感としてはこれくらいのペースじゃないと読んでもらえないのかもしれません。

あと、異世界ものに限らず、この手の戦略に重点を置いた作品はやはり、その戦略のもっともらしさをどう魅せるかが難しいです。王道で言えば、数の暴力で蹂躙するのが一番正しいのですが、そればかりでは作品的に面白くないし、判官贔屓ではないですが寡兵で多兵を破る物語というのがどうしても持て囃されます。そこをどう表現し、面白さを引き出すかは難しく、あまりこの手の作品は人気が出ません。スキルを使えばどうとでもなる部分もありつつ、あまりにそれ頼りだと大味になりますし。

また、領主、国王として天下統一するには自分が戦略を立ててもその実行は他者に任す部分も出てきます。SLGだと「委任」とかいうコマンドになります。もちろん、SLGの場合は全て自分で面倒を見ることもできますが、ゲームの中の世界はそうもいかないので、その辺りをどう描写していくのか気になります。
今回、中盤以降は領内のことは残留組に任され、その部分は一切話が出てきませんでした。まあ、そこまで細かく書いていると分量がすごいことになるし、なかなか先に進まずスピード感も出ないというところであっさりと切るのは正しいのかもしれません。
今後もそうなると結局、個人の話になってしまうのかな、と危惧してます。

少し脱線すると初期設定は「悪徳領主」ですが、「俺」がゲームを開始した時点でエルヒン・エイントリアンは悪徳領主ではないのですよね。でも、タイトルには「悪徳領主」が残り続けるわけで。それが物語を見るものからすれば英雄王と呼ばれるような人も、その領民から見れば他国に戦争をふっかける悪徳領主だというところまで含むのかな?考え過ぎかな?というところもあります。野心的な王なのか天下をまとめた立派な王なのかは、紙一重ですからね。

期待と不安が入り混じりますが、1巻ではまずは生き残りと当座のヘッドハンティングは成功し、さらにキーパーソンになりそうな自分との縁もつなぎました。
まずは、この先が楽しみです。

公式サイト