ラノベ感想:りゅうおうのおしごと!17.5 ~天ちゃんのおしごと!~

読書,ライトノベル,りゅうおうのおしごと,将棋,白鳥士郎

電子限定の外伝シリーズの3冊目。あい、銀子に続いて天衣の登場です。時間軸は15巻あたりから18巻あたりまで。天衣の姉妹とも言えるスーパーコンピューター淡路誕生までの裏話を含む、天衣の魅力満載の外伝です。

あらすじ

あいに去られた後、神戸で天衣と同居し始めた八一。初詣のおみくじの結果も…。運が悪いんじゃないかと思う八一に天衣が持ちかけたのは福男レース。言われるがままに特訓を始めた八一だったが…。

天衣が1日警察署長になる話や、淡路開発秘話も含めた連作短編集。天衣がタイトル戦を行なっていた背後で何をしていたのかが、今、明かされる…。

神戸のツンデレラと淡路裏がわかる外伝第3弾

外伝は特定の人物にフォーカスを当てた短編をまとめた感じ。あい、銀子ときてついに天衣の出番です。八一が弟子と言ってもあまり天衣にそれらしいことができてないという想いをもっていることが出てきますが、確かに同じ姉妹弟子でもあいの方がフォーカスされることが多いですよね。まあ、仕方がない部分ではありますが。

DLの話

本編でここのところディープラーニング(DL)の話がたくさん出てきてましたね。あとがきによるとバランス的に本編に書けないようなDLのディープな部分を外伝では書けたとのこと。ただ、ちょっといろいろもやっとしてしまいます。

というわけで、自分の整理も兼ねてもやっとしている部分を余計なお世話ですが補完します。ただし、こっちはあくまでしがない普通のプログラマ崩れのおっさん。AIやDLの専門家ではないのでご了承ください。

もやっとポイント

本編でも似たような記述はありますが、例えば以下の部分。

ディープラーニングは、GPUという新しいタイプの画像処理装置を使う技術。GPUはグラフィック性能の高いゲームなんかでよく使われるから、最近はゲーミングパソコンにも性能のいいものが搭載されるようになった。
従来型の将棋ソフトはCPUを使っていた。名前が似てるから紛らわしけど。これはどんなパソコンにも積んである。

りゅうおうのおしごと! 17.5 第3章 「淡路、誕生」より

従来型(非DL)はCPUを使い、ディープラーニングはGPUを使う、という説明は本編でも何度か見かけた記憶があります。まあ、結果から見れば間違いとは言い難い部分ですが、ちょっともやっとする書き方です。

そもそもCPUとGPUとは

CPUは中央演算装置(Central Processing Unit)の略。 よく人間の頭脳に例えられますが、人間の脳みそには記憶を司る部分もあるのでちょっと微妙な例え。すごく雑な言い方をすれば、CPUとは計算をするのが仕事。昔のCPUは整数の加減算しかできなかったし、最近でも四則演算程度。もっと複雑な計算は四則演算を組み合わせるか、別のパーツを使うことが多いです。

一方のGPUは画像演算装置(Graphics Processing Unit)の略。元々は画像処理用にCPUを助けるための補助装置でした。現在は暗号化とかディープラーニングとかにも利用されています。
上の説明では最近のものと説明されていますが、GPUという言葉が登場したのは1999年と言われています。今でもお馴染みのNVIDIA社がGeForceという製品を作った際に提唱したもの。すでに四半世紀近く前の話が「最近」なのかが微妙ですが、GPUの元となった考え方自体は1970年に登場。もう半世紀近い前の話。

GPUのおしごと

先にCPUの話をしておきます。CPUはコンピューターの頭脳。プログラムはCPUが解釈して実行します。ただ、昔のコンピューター(CPU) は非力でした。今でこそマルチコアだのマルチスレッドだのと言ってコンピューターに複数のCPU的なものが載っているのが普通ですが、昔はCPUは1個だけ。コンピューターは同時にいろんな仕事をしているように見えても、実は分身の術のようなもの。高速で作業を切り替えながら動いているので同時に複数の作業をこなしているように見えますが、実は同時にできる作業は1つだけ。CPUが何かの処理をしている間は、他のことはできません。
ただ、コンピューターが一般化して様々なことをこなすようになると、限界が見えてきます。例えば、昔のCPUは整数しか扱えません。それをプログラムで工夫して小数も扱えるようにしていました。が、当然、小数を扱う仕事が増えれば限界が来てしまいます。そこで、小数を扱う専門の装置を外付けしたりしました。もっとも、その後、小数くらいは普通に扱えないと話にならないので、CPUの中に取り込まれましたが。

それと同じように画面に綺麗な画像(グラフィック)を表示するには時間がかかります。が、それでCPUが一杯一杯になったら他のことができません。そこで生まれたのがGPUのご先祖様。グラフィックコントローラーやグラフィックディスプレイコントローラー(GDC)などと呼ばれました。

上の説明では画像処理と呼んでいましたが、一般的に画像処理というのは画像の中から意味のある部分を抽出することや、画像になんらかの変換処理を行うことを指します。GDCの仕事はそういう画像処理ではなく、画像を作る(描画)から始まりました。その後、変換処理なども含めた画像処理全般を扱うようになります。その処理能力を買われて、今では画像と関係ないところでも使われるようになりました。

CPUが社長なら、GPUは経理部長

と専門的なことを書きましたが、ざっくり言えばCPUは社長。会社はとにかく代表者である社長が居なければ存在できません。社長が会社の全ての仕事をこなすことはもちろん可能。個人事業主やフリーランスはそれでやっているのですから。

ただ、会社が大きくなれば、やることも増えて社長だけでは手が回りません。だから、例えば専門知識が必要な経理については人を雇ったりします。これがGPU。経理の専門知識を持っている人は知らない社長よりも効率よく仕事が可能です。だから、社長は経理の仕事は任せて、もっと他のことができます。これがCPUとGPUの役割分担です。

コンピューターグラフィックスは計算の塊

コンピューターグラフィクスについても少し書いておきます。いろいろなやり方がありますが、今は物体の質感や光の当たり具合などをすべて計算して絵をつくるのが普通。つまり、1枚のイメージをつくるためには膨大な計算が必要。それが動画ともなればさらに数十倍の計算が必要になります。

先ほども説明したようにCPUは多くの仕事をこなしています。そこに、膨大な計算をする仕事まで増えたら大変ですよね。だから、サポートのために計算がとても早いものに計算を頼みます。それがGPU。

ここで間違えて欲しくないのは、GPUとCPUの区別は役割の上の話です。社長と経理部長は仕事の責任範囲や必要な知識が違いますが、どちらも人間ですよね。だから、別に知識と余裕があれば社長が経理の仕事をしても問題ないし、そういう社長もいるでしょう。これがポイント。

従来技術=CPU、ディープラーニング=GPUではない

ここまで読めば概ね分かるとは思います。本作では従来技術はCPUを使い、ディープラーニングではGPUを使う、みたいな説明をしています。まあ、現実問題、現象だけ見ればそれも間違いではありません。ただ、それはディープラーニングが膨大な計算が必要であり、それにCPUを使うのは効率が悪いというだけの話です。

別にCPUだけを使いGPUを使わないディープラーニングも理論的には可能です。実際問題、GPUを使わずに小型コンピューターでディープラーニングする取り組みも存在します。大規模なディープラーニングを行うためには膨大な計算が必要で、そのためにはすでに存在するGPUを流用すると効率が良いからそうしているだけ。ディープラーニングのためにGPUが必要とか、ディープラーニングはGPUを前提とした技術なんてことはないわけです。逆に言えば、ディープラーニングを使わないアプローチでも、膨大な計算が必要であればGPUを活用することはあり得ます。

その辺はスマホを見るとわかりやすいかも。最近のスマホはCPUとGPUとは別にAIを処理する仕組みを内蔵していることが多いです。スマホの場合、GPUは本来の画像関係の仕事をこなすのに忙しいし、CPUはもちろん多忙。だから、AI処理のためにさらに専用のものを追加しています。パソコンでもそのうちGPUとは別にAI処理エンジンみたいなものを追加するようになるんじゃないかと思ってます。今はGPUの方がニーズが高かったのですが、ここ最近の生成AIブームが進めば、関係ない部分を多く持つGPUではなくてAIに特化したものの方が良いじゃん、ってことになるかと。

なので「ディープラーニングはGPUを使う技術」というのは全くの嘘ではないですが、ちょっと本質を外した説明。GPUは手段であって、別にそれが前提でもなんでもないので、かなりもやっとする話です。
例えば、野球でもサッカーでもなんでもよいですが、高校や大学のスポーツ関係の部活で不祥事を起こして大会の出場停止なんてことがたまりにありますよね。それを取り上げて「高校や大学のスポーツ関係の部活をしている学生は問題を起こす」なんて説明をしたら炎上しますよね。そういう学生がいるのは事実ですが、それは全体から見れば一部の学生個人の問題です(たまに部活ぐるみでやらかしてるケースもあるような気はしますが)。

結局はいかにしてモデルを作るか

17.5巻の話の中で、淡路のブレイクスルーとしてモデルを作り直す話が出てきます。結局は、いかによいモデルをつくるかが1番のキモになります。人間で言えば、経験を蓄積して知識を増やすことで今までできなかったことができるようになるとの同じ。

すごく雑な話をすると、ディープラーニングというのは大量のデータを与え、そこからなんらかの特徴を取り出すこと。人間でも「この人がこういう態度をとるときは内心ではこう思っているだろう」とか「こういうエラーが起きているときはこれが原因」みたいな経験則がありますよね。これがビッグデータから取り出した特徴。その昔のAIブームの時は「エキスパートシステム」と言ってました。

エキスパートとは専門家、その道のプロのこと。例えば医療なら、ある領域の専門家の知識というものをデータ化して、それを活用できれば高水準の医療をいつでもどこでも受けられるよね、という発想です。ただ、問題はその知識のデータ化が難しかった。その昔は「こうならばこう」みたいなものを用意してなんとかしようとしたものの、それには莫大な関連情報が必要なのは想像できますよね。とてもじゃないが処理しきれませんでした。医療の専門家はAIの専門家ではないし、AIの専門家は医療の専門家ではないので、コンピューターが処理できる医療の知識のデータ化がとても難しいのは想像できるかと思います。

それをある意味力づく、機械的な人海戦術で突破したのがディープラーニング。エキスパートシステムが使うモデルを人間がつくるのは限界がある。だったら、疲れもせずにひたすら処理し続けるコンピューターに任せてしまえという話。コンピューターは単純な処理を瞬時にこなすのは簡単。人間も何かの問題にぶつかったときに、まずそれを細かい問題に分割して解決します。その辺、本編やこの17.5巻でも描かれているので、イメージはできるかと思います。

まあ、あくまで説明用にかなり雑な説明をしているので、そのまんま受け取られても困る話ですが、ディープラーニングはGPUとかいう説明よりはマシかな、と。

天衣の話

厄介そうでも実は意外と根が優しい天衣お嬢様。清滝一門では桂香に次ぐ常識人ではないかという気も。あいや銀子はあの性格で基本自分本位ですし、それは八一も同様。強烈な反面教師2人が居るので、ある程度抑制が効いてる感じはありますけど、根本的な部分ではあいと変わらないかと思います。判断に困るのが師匠です。強烈な弟子たちと比べれば常識人の範疇ではあるかと思いますが、数々の非常識なエピソードや第1巻冒頭の事件などもありますからね。

正直、小学生で三足の草鞋は無理がありすぎですが、ラノベのキャラなので十分常識の範囲でしょう。あいの場合、設定的にそういう超人(本作で言えば将棋星人)的な存在がいても不思議ではない気はします。が、天衣はそういうのとはまた違うので。大人でもこんなマルチな活躍する人なかなか居ないですよね。

あまり、作品内では目立たない上に、なんとなく正統?ヒロインであるあいの対となるキャラなので印象も良くない感じの天衣ですが、個人的には本作の中では一番好きなキャラ。今まで描かれてこなかった分、外伝で活躍してくれないかと思うのですが、難しいですかね。今まで作品内の展開上、貧乏くじを引かされ続けてきた感があるので、幸せになって欲しいのですが。

本編では今後、和解したあいのサポートにまわるのでしょうか?というか、あと2巻で結末までちゃんとたどりつけるのか?という疑問もあるのですが。

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既刊感想

一応、 既刊に関する駄文は以下で参照可能です。