ラノベ感想:りゅうおうのおしごと!16.5

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タイトルが「.5」付きなので分かる通りの番外編。時間軸としては17巻で登場した碓氷尊と八一の竜王を賭けたタイトル戦、最終局。つまり、あいと八一の出会いでもあったあの対局の前夜祭から終局までの3日間。BD/DVDの特典小説を大幅に加筆したものとのこと。そのため、2回目の電子配信限定です。

あらすじ

八一がまだ竜王ではなく挑戦者だった昔。7戦目までもつれ込んだ最終対局の場が北陸、和倉温泉の旅館であるひな鶴。そこに碓氷尊竜王と挑戦者、九頭竜八一、および将棋協会関係者が集まる。最年少竜王が誕生したその対局の場で、のちの八一にとって重要な存在になる二人の少女もまた出会っていた。最終対局前夜から終局までの世代交代が行われた世紀の一戦の舞台裏で何があったのか。「りゅうおうのおしごと! 0」とでも言うべき、物語の原点が今明かされる。

あいと八一、銀子の出会い

「りゅうおうのおしごと!」の物語は九頭竜八一が碓氷尊を下して竜王になったところから始まったわけです。その7番勝負の最終7局目の足掛け3日間に注目したのがこの「16.5」です。視点は竜王・碓氷尊、姉弟子・空銀子、旅館の娘・雛鶴あいの3者の視点で語られます。対局の最後の部分は八一視点で描かれていますが、その背後でどういう物語があったのかが分かる一作。元々、アニメのBD/DVDの特典小説だったものを大幅に加筆した半書き下ろし作品で、15.5に続いての番外編&電子配信限定です。

その時、運命が動いた

この対局で主人公、八一は最年少竜王となり、その後の彼の人生を大きく変えることになるのが本編。しかし、その裏で、実は3人の運命も変えていたというのが今回の話。

一人はもちろん、対戦者であり、肩書きに「前」の1文字が付くことになった碓氷尊。その彼は前後して発売された17巻であいの前に立ち塞がる壁となります。

二人目は雛鶴あい。ここで対局が行われなければ将棋、そして八一と出会うこともありませんでした。でも、すでに将棋星人の片鱗を見せています。

そして、最後は当然、空銀子。この時の彼女は先に女流のタイトルを取っている状態ですが、彼女自体はまだ八一と同じ土俵にいると思っていた頃。本作でたびたび登場する「将棋星人」という言葉がここでも出てきます。そして、この頃の彼女は八一とともに自分も将棋星人であり、あいは違うとみなしています。のちの顛末を知っている身からすると、なかなかに色々な想いが交錯してしまいます。

今回、最後のシーンで八一が言葉を濁した件。本編ではすでに語られていますが、タイトルを先に撮ったが故に「姉弟子」と呼ぶしかできなくなった八一の感じた絶望を、今巻ではその八一の竜王奪取によって銀子に何倍もにして返す結果に。どうにも、この二人の未来は希望が見えないのです。しかし、16.5で当時の銀子の心理が描かれたことで、ますます悲劇しか見えなくなってしまいました。

もっとも、八一と3人のヒロインとの未来は、いずれも悲劇しか見えないのですが。それでも、一番無難になりそうなのはあいでしょうか。銀子は元々悲劇性が高かったのが17巻でもうどうにもならなそうな感じ。天衣はもう悲劇しかあり得ない感じ。

話を16.5に戻すと、完全に番外編だった15.5と違い、今回はストーリー0とも言うべき内容です。あいももちろん登場しますが、銀子の絶望の始まりでもあった竜王戦の顛末を知るためにも、できればシリーズ読者は読んだ方が良い一作ではないかと思います。

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