ラノベ感想:本好きの下克上 第五部 女神の化身X

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サブタイトルつけると長すぎるので外してます。正しくは 本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身10」です。短編集や外伝を除いた本編では通算で31巻目になります。ついに2023年で本好きの下剋上本編の完結が予告されました。来春にXIが出た後、おそらく夏になるであろうXIIが最終巻になるようです。

今回の話はほぼ全編が気の抜けないバトルが連戦です。

戦いの場は貴族院へ、ユルゲンシュミット存亡の危機

これまで1巻で1季節くらいだった本好きの下剋上。ここのところは各巻1〜2日くらいという濃い巻が続いています。今回はアーレンスバッハの礎奪取、エーレンフェストの礎防衛に続いての、貴族院でのツェントの地位を賭けた攻防になります。

ついに敵の動向が判明し、戦いの場は貴族院へ。ツェントの地位をめぐる戦いも最終局面。ランツェナーヴェからやってきたジェルヴァージオのグルトリスハイト取得を目前として、ラオブルートがもはや隠すことなく行動を開始。離宮や王宮でも中央騎士が絡んだ戦いが始まってしまう。そこでついにジェルヴァージオとフェルディナンド・ローゼマインが対面。アナスタージウスやアウブ・ダンケルフェルガー、トラオクヴァール王の第3夫人マグダレーナも加わって乱戦に。

しかし、魔力の多さではジェルヴァージオに分があり、熟練ではフェルディナンドに分がある状況でこう着状態に。その均衡を破ったのはフェルディナンドへ向けられた致死毒に対してのローゼマインの神への祈りだった…。

神と人の交わらぬ理想

この世界の神様たちってまさに「君臨すれども統治せず」ですね。まあ、そもそもはんば人間に忘れられていたわけで、人間に対して不満を持つのも分からないでもないですが。さらに、神にとっても驚きの異世界人・麗乃の人格をもつローゼマインがかき回すのですから。とは言え、人間から見ればこいつらなんなんだという感じ。

もっとも、この世界は階級社会故か、作者の何かの思想なのか、階層間の考え方の違いはかなり大きいです。例えば、エーレンフェスト内でも第一部の下町の中での最下層のマイン一家の住んでいたあたりと、商会があるあたりではだいぶ違います。街と神殿でも違うし、平民と貴族でも大違い。その貴族でも上級、中級、下級では違いがあるし、領主一族ともなればまたかなり違ってきます。

さらにはエーレンフェストみたいな下位〜中位領地とダンケルフェガーなどの大領地もかなりかけ離れていて、お互いに相手には相手の考え方があることすら気づいていなかったり、王族と領主、中央と領地でもなんか相互の意思疎通ができてない感じ。ちょっとここまで意思疎通できてないのは現実離れしすぎの感はあります。もっとも、マイン(ローゼマイン)が「下剋上」していくにあたって、こういう階層間の常識の違いに直面して色々学んだり、改革をしていくことになるというストーリー上、仕方ない面もあるでしょう。

親しげでも実際のところ理解し合えていないというのはエグランティーヌとローゼマインの関係性を見ても明らか。まあ、作者がなんか王族に恨みがあるのか、王族の人たちってそもそも覚悟が足りない感じ。基本、ランツェナーヴェくらいしか接する外国がない感じで、国の危機というのを本質的には理解していない感があります。その点は実際に領地を収める領主の方が切実さを実感できているよう。

政変から日が経っておらず、穏健的に世襲したわけでもない王族が、守られたり命じるばかりで領主たちの支持とか関係ない的な行動が目立つあたりが、フェルディナンドの怒りを増幅してそうで、そこばかりはジェルヴァージオと分かり合えるのではないかと思うくらい。

フェルディナンドの怒り

ローゼマイン視点の本編で見るとなんとなくエグイと感じるフェルディナンド。ただ、その後のフェルディナンド視点やジェルヴァージオ視点を見ると、平和的なのは見かけだけというのが分かるので、やはり平和な日本人気質が抜けないローゼマインの方が(ユルゲンシュミット的には)おかしい感じ。

もっとも、アウブ・ダンケルフェルガーがフェルディナンドだけは敵にしたくないと漏らすくらいには、フェルディナンドのやり口は徹底しているのも確かそう。まあ、完璧主義者だから敵と見做せば完膚なきまでに叩かなければ気が済まないし、そもそも幼少〜青年期の人格形成での体験からも中途半端に相手を許すことはできないのでしょう。

ただ、ローゼマインによって危機から救われて、自分を大事にしろと言われてからはちょっと吹っ切れた感じ。あそこまで徹底したのも自分だけのためではないのでしょう。自分だけなら、ジェルヴァージオはともかく、他のユルゲンシュミット人には遅れを取らない自負はあるでしょうし。

戦は終わり、事後処理へ

ジェルヴァージオは実質無力化され、戦闘はひとまず終了。ということで、次巻では王族との話し合いがメインでしょうか。ただ、さらにもう1巻あるので、XI巻でどこまでやって、XII巻で何をするのかはよくわかりません。ツェント問題をどうするのかや、アーレンスバッハの扱いとか、色々決め事が必要になるのは確か。

バトルは終わったので、本編ラストのような穏やかな時間が戻ってくるとよいのですが。

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