ラノベ感想・全肯定奴隷少女:1回10分1000リン

読書,ライトノベル,佐藤真登,全肯定

田舎出の冒険者に憧れる少年レンは初めての冒険で大失敗。打ちひしがれて公園に来てみると怪しい扮装の少女が居る。お近づきになりたくない感じだったがやってきた女性とのやりとりについ聞き入ってしまう。少女は女性の愚痴に対して全肯定、レンも我が身を振り返って再びやる気を取り戻す。
そんな少年と奴隷少女のボーイ・ミーツ・ガールの物語。

あらすじ

田舎から出てきてとあるパーティに拾ってもらった少年レンは、初冒険で大失敗。パーティ仲間の少女にも激しく罵られ、打ちひしがれて公園に来てしまう。そこには存在しないはずの奴隷の扮装をした少女がおり、「全肯定奴隷少女:1回10分1000リン」という怪しい看板を持っている。いかがわしい商売かと関わりにならないように去ろうとした時、シスターが駆け寄ってきてすごい勢いで愚痴を吐き出す。謎の美少女はそれに対してすごい勢いで全てを肯定する。ついつい聞き入ってしまったレンは今日の自分の失敗を反省し、冒険者を続けようと改めて決意を固めるのだった。

だんだん明らかになっていくストーリー

本作は1巻完結の長編小説なのですが、プロローグとエピローグを除いて10の独立したエピソードに分かれており、連作短編の様な構成になっています。一部を除き、それぞれが「奴隷少女ちゃん」とお客さん?のやりとりとそれを聞いてしまうレンという構成になっています。

あらすじ部分だけでツッコミが色々あるかと思います。でも、この後、読み進めていくと、読者が思ったことや、レンが不思議に思ったことの背景が段々と明らかになっていきます。本名すら明かされない「奴隷少女ちゃん」自身はあまり多くを語りませんが、「奴隷少女ちゃん」を取り巻く人達の動きややりとりから、こういう事だったんだ、ということがわかる様になっています。
そして、この世界そのものについても段々と明かされていくようになっており、ハマればどんどん世界に入っていってしまいます。自分も思わず一気に読んでしまいました。

全てを肯定してくれる癒しの美少女

現実にも、(美少女かどうかは別として)こういう話を聞いてくれる商売というか、サービスがあるということを先日テレビで見かけました。一応、悩み相談という体をとっているのですが、実際には悩みを解決してもらうというより、悩みを話してうなづいてもらうことでストレスを発散する様でした。
飲み屋で愚痴を言い合って発散する社畜と違い、主婦はそういう発散の場がないようで、結構、稼いでいる方もいるとかなんとか。

本作の謎の美少女、「奴隷少女ちゃん」もお客さんの話をすごい勢いで全肯定してくれます。こんな調子で。

「ねぇっ、聞いてよ奴隷少女ちゃん‼︎」
「わかったの‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎もちろん聞くのよ‼︎‼︎‼︎︎︎︎︎︎︎︎︎なんでも言うがよいの‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎えへっ!」
 <中略>
「奴隷少女はあなたのお悩みを全肯定するの‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎さあ‼︎‼︎‼︎‼︎日々のお悩みを叫ぶといいのよ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

「シスターさんの全肯定」より

「奴隷少女ちゃん」は何かをアドバイスをするわけでもなく、時によっては会話が成り立っていないこともありますが、とにかく全てを肯定してくれます。たまにフォローしきれなくなると誤魔化すこともありますけど。

そんなわけで、この怒涛の勢いにレンは飲まれてしまうのですが、多くのエピソードはレンの冒険中の一コマと、その後公園にきて「奴隷少女ちゃん」とお客さんのやりとりを聞いてしまい、自分の行動や態度を反省するという構成になっています。
レンと「奴隷少女ちゃん」は直接的な対話はあまりなく、大体が聞き役と(レンの心の中での)ツッコミ役なのですが、間接的な交流がレンを成長させるという一風変わったボーイ・ミーツ・ガールになっています。

時には全否定もする

そんな「奴隷少女ちゃん」ですが、時に無礼な人や勘違いした人、客と看做さない人にはプラカードを「全否定奴隷少女:回数時間・無制限・無料」に切り替えて、全否定します。その凄まじさは全肯定の時とは全く異なり、同じなのは言葉の勢い(‼︎の数)だけ。

そんな「奴隷少女ちゃん」はこの国の歴史や裏社会、そして「勇者」とも因縁がある模様。最後のエピソードでは、「勇者」と「奴隷少女ちゃん」の諍いの場にレンが居合わせることになります。この1冊まるまる繰り広げられてきた全てのエピソードがここに収束し、クライマックスに至るのです。そこにはドラゴンも魔王も存在せず、ただ人々がいるのみ。傍から見ればなんてこともない、世界にとってもなんでもないその場が最高に熱い。レンの成長に感極まってしまいました。

気になる点

本書の特徴である奴隷少女ちゃんのセリフにやたらと”‼︎”が入る部分は、気になる人は我慢できないかも知れません。これだからライトノベルは…と敬遠される向きもあるかも知れません。ただ、個人の意見ですがそれで読むのをやめるのはもったいないかと思います。公式サイトでプロローグと冒頭2つのエピソードが試し読みできるので、それを読んでみて判断してみてください。個人的にはもう1つの「チンピラは全否定」まで試し読みに出して欲しかった。‼︎以外は読みやすいと思います。

英雄、勇者に憧れる少年が少女と出会って成長すると言えば「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(ダンまち)」を思い浮かべてしまいます。ま、あちらは女神ですけど。
ただ、こちらは冒険そのものについてはあまり触れないし、ベル・クラネルみたいな特殊な能力や背景は(現時点ではおそらく)もありません。レンは成長している様ですが、比較対象もないのでそれがベル君みたいに脅威的な成長なのかはわかりませんが、おそらくそんなことはないと思います。そんな普通の少年が、少女と出会って普通に成長していく姿を描いています。そこに世界を揺るがすドラマはないのですが、少年らしい想いが伝わってくる、そんな作品だと感じます。

このストレス社会に加えて、コロナ禍での我慢も加わり、全肯定してくれる美少女というキャッチーな部分だけでなく、こういう切り口の成長物語もあるのだなと気付かされました。

2019年7月に刊行されたのですが、次巻が果たして出るのかどうか。ぜひ、出て欲しいのですが。別レーベル作品の方がある程度落ち着かないと無理かな。

2021-05-10読書MF文庫J,ライトノベル,佐藤真登,全肯定

Posted by woinary