ラノベ感想:蜘蛛ですが、なにか?11

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幼くして勇者になったユリウス。勇者足りえるためにシステムによって勇者にされた彼の勇者としての成長物語。そして同じくシステムとして魔王にされたアリエルと交差し、人魔大戦へと時代は動く…。

あらすじ

 幼くしてシステムにより勇者の称号を与えられたユリウス。しかし、オウツ国とサリエーラ国との戦いなどで無力さを感じたユリウスは真の勇者となるべく戦い抜く決意を固める…。

まるまる1冊勇者ユリウスの第11巻

あまりにも「勇者」だったユリウス

今巻はほぼほぼユリウスの話で、所々そふぃあちゃん日記が挿入されるくらい。しかもこれ日記調で、そこから何が起きていたのか読み取らないといけないということで、話のほとんどが人族の現状やユリウスに関する物語です。

そんなシステムに選ばれたユリウスですが、ステータスはあっても人生も戦闘も経験不足。初期は挫折を繰り返します。しかし、そんな中でも師匠や支えてくれる大人、頼れる仲間たちとともに成長し、徐々に名実ともに勇者として頭角を表します。

しかし、その裏であまりに生き急いだというか、彼の物語は全て自己犠牲です。そういうところでは、彼があまり好いてはいなかった真言教教皇ダスティンとかぶるところも多いです。もっとも、ダスティンの場合は自分の死を厭わないものの、生命の使い所というところを常に考えているように感じます。そこが、常に全力で一切振り返らないユリウスとの違いでしょうか。
あとはダスティンは人族全体のことを考えた上でそのためならば容赦はありませんが、ユリウスはそこから零れ落ちる目の前の人を見捨てることはできないという違いもあります。ある意味よくできたシステムではあります。

また、システムとは何か、というところも考えさせられます。今巻ラストイラストで、同じセリフを語る「勇者」であるユリウスと、「魔王」であるアリエル。同じ目的を持ちつつ手段が異なる二人。二人はシステムによって相互に理解しあうことはできません。
もっとも、先代魔王と勇者という例があるので、絶対できないということはないのかもしれません。しかしもうアリエルは覚悟を決めており、「白」という協力者も得て止まることはないでしょう。
そして勇者。彼はあくまで「人族」のことを考えています。彼は「人族の希望」ですから。それがユリウスの器なのか、システムと称号、スキルによって蜘蛛子のように考え方を誘導されているのか分かりません。彼は禁忌も知らないでしょうから、「世界」のことも知らないでしょう。
同じ理想を持ちつつも、それぞれの立場、識り得ること、境遇で手段は変わってくる。それはシステムの悪意なのか、それとも所詮人は分かり合えないのか。

彼はあまりにも「勇者」であり、それが幸せであり、不幸であった。そして、いよいよ次は人魔大戦です。すでに既刊で語られている通り、勇者ユリウスの最後の戦いです。

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Posted by woinary