ラノベ感想:転生王女と天才令嬢の魔法革命

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通称、「転天」。最近、アニメを見た→コミックにも手を出した→勢い余って原作にも手を出した、というパターンが増えてます。本作もその流れ。昔、ラノベを読んでた頃は読んでたラノベがコミカライズやアニメ化されていたのですが、今は逆にアニメで見てからコミカライズや原作に手を出してます。まあ、昔は月に何冊も買っては、会社への通勤の往復で読み終わったりしていましたから…。

ただ、本作の場合、そもそもアニメを見る気はなかったのです。ああ、また転生ものか…と。ただ、たまたまコミカライズを見かけて、無料お試しからすでに放送開始していたアニメをAbemaで見てという変則的な流れで追いかけてしまいました。

あらすじ

パレッティア王国の王女、アニスことアニスフィアはある日突然、「前世」の記憶を思い出す。その上で真っ先に思いついたのが「魔法で空を飛びたい」というもの。しかし、何の運命の悪戯か、王族や貴族なら当たり前に使える魔法がまったく使えないことが判明。どうしても魔法を使いたいアニスは魔法の学問、魔学の研究を始めるが、「前世」の知識を応用した魔学は魔法や精霊を神聖視する王国の貴族にはウケが悪い。

そんな中、弟のアルガルド王子がユフィリアとの婚約破棄を宣言。転生した王女とさまざまな分野の才溢れる天才令嬢という正反対の二人の軌跡が交わった時、物語は動き始める。

正反対な二人が一緒に世界を変えていく王宮百合ファンタジー

と、特設ページに書いてありますが、1巻時点ではそれほど百合という感じではありません。まあ、王女は結婚したくない、女性を愛でたいと公言してますけど。別に女性が特に好きとか、男性が嫌いということではなくて、恋愛というものが考えられないらしいです。

転生設定が薄い転生もの

例によって異世界転生ものですが、「前世」時代の名前やどういう人間だったかとかも特に出てくることもなく。前世の知識をある日突然「思い出した」わけですが、特に現代的な知識や超便利なスキルで無双するという感じではない転生もの。転生と言いつつ、あまり転生感のない話になってます。どっちかというと、ある日「電波」を受信してしまったという方が近いような感じ。そういう意味では取ってつけたような転生設定が本当に必要だったのかは疑問があります。

魔学についても色々とこれまでの研究の結果から「こうであろう」ということが綴られています。が、それは全てアニスの想像に過ぎないもの。おそらく正しいのでしょうが、後で「実はアニスの勝手な想像だった」と覆されることがないとはいえないので話半分で聞いています。

アニスの魔法使いへの強い憧れ

他にも設定的なことを気にし出せばキリがありません。例えば、それなりに広さもありそうな離宮に、いかに有能とはいえイリア一人で手が回るのか?とか。言うだけ野暮なので追及しませんけど。

それはさておき物語の中核となるのはアニスの魔法への強い憧れ。まあ、誰でも魔法が使えたらなと思うことはあるかと思います。もしかすると、この世の中にも魔法があるのかもしれません。が、普通は使えません。そんな世界から魔法が自由に使える世界に行けたら…。自分も魔法を使いたいと思うかもしれません。

が、アニスは魔法は使えません。魔法を使うためのエネルギー、魔力はあっても魔法を使うためには必須の精霊の存在を感知できない。そのため、精霊に働きかけて魔法を形にすることができない、と説明されています。あくまでアニスが電波を受信してからの独自研究をもとにした推測の話ですけど。

ある意味美味しいご馳走の前で待てをされているようなもの。自分がそんな立場ならあるまずは絶望してしまうかもしれません。が、前世ではどう言う人物だったのか、アニスはなぜ使えない?どうしたら使える?と魔法を学問として追及します。

これについてアニスがある脅威との戦いの中の独白でこんな心境を語っています。

義務じゃない。責務でもない。使命なんかでもない。ただの自分に誓った祈りと願いだ。こうでありたいという自分の為に戦うと。他人の為に尽くしたい訳じゃない。誰かの為に身を削って悦に入ってる訳じゃない。私が望む景色が見たい。ただ、それだけの話なんだ。

5章 転生王女様は魔法に憧れ続けている より

自分も命の危険があるような仕事じゃないのでここまで言うと大袈裟ですが、似たような気持ちは抱いてました。朝8時から夜は23時まで仕事して。他人から見ればブラックだとか、そこまでする必要があるのかと問われたり。でも、違う。そうじゃない。自分がそれを見たいからやってる。今ならやりがい搾取とか言われてしまうかも。

頑張らなくて良い物語

行きがかり上ユフィを離宮に連れてきた最初の晩。アニスがユフィが人間として不器用だと指摘するシーン。ここでまずうるっときてしまいました。

「大丈夫だよ。良いんだよ、誰かから優しくされても」

4章 虹を思い描くように より

自分は当然、次期国王の伴侶として国を支えるような重要な立場に就いたことも、期待されたこともないです。だから、ユフィに対する圧や、それを受け止める彼女の想いは想像するしかできません。でも、自分は大丈夫と思ってても、人は折れてしまう時があります。そんな時、こんな言葉をかけられたら…。

その意味ではイリアのセリフも良かったです。まあ、なかなか答えが出ないし、出せたとしても何が正解なのかわかりませんけど。

「ですから、どうぞ心ゆくまでお悩みください。その悩みの答えだけは、貴方様がご自身で出さなければなりません。誰かに求められた自分ではなく、自分が求める自分に。(後略)」

4章 虹を思い描くように より

百合とか関係なく、理想のパートナーを見つける話?

1巻の最後、一通りの騒動がなんとか落着し、宴が開かれます。そこで外に出て休むアニスにユフィが告白するシーン。まあ確かに女性同士じゃなければプロポーズの言葉と言っても過言ではないです。ここでのアニスの独白がまた突き刺さりました。

それが許しのように思えた。私はこの道を進んで良い。誰かに認められなくて良いなんて本当は強がりだ。受け入れてもらえるならそっちの方が良い。でも一人で歩くのに慣れてしまった。認められないことを受け入れてしまった。

でも、もしかしたら、ユフィと一緒なら。私が一人で出来なかった事を彼女と一緒なら出来るのかもしれない。この胸の温もりを凍てつかせなくても良いのかもしれない。

エンディング より

周りに仲間がいない転生者として、当たり前の魔法が使えない王族の一人として、そして、キテレツ王女と蔑まれることも多い立場として、孤独に過ごしてきたアニス。なんか無駄に親近感を覚えてしまいます。

しかし、こんなこと言えるパートナーと出会えたなら、それはおそらくすごく幸せでしょうね。自分は経験ないからわかりませんが。自分が経験できなかったものを擬似体験できるのが読書だとすれば、まさにこんな体験をしたかったと思ってしまいます。変に恋愛感情が絡まない分、純粋に分かり合えるパートナーというところで読みやすく感じるのかもしれません。

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