ラノベ感想・俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていたIII

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悪徳領主エルヒンこと「俺」の戦いはついにナルヤ主力を預かるフラン・バルデスカとの再戦へ。ナルヤの再侵攻とルナン王国の滅亡を避けられないと見た悪徳領主エルヒン(俺)は、その後の天下統一の戦いをいかに成し遂げるかを考えた上、3ヶ月の準備期間を経てついにナルヤの大軍と対峙。その数およそ自軍の10倍。
大国の主力対1地方領主という世界制覇の前に生き残る必要がある戦いをどう切り抜けるのか?

あらすじ

エルヒンは先の戦いで得た領地に隠された彼だけが知る鉄鉱石を得るために動き出す。その一方で、暗殺者に襲われたエルヒンはその拠点を潰して裏組織を牛耳るとともに貴族と裏組織のつながりを利用して戦略を優位に進めようとする。そしてついに動き出したナルヤ軍。参謀フラン・バルデスカ率いる主力15万の前になすすべもないルナン王は城を捨てて逃亡しあっけなく王国は滅亡。

エルヒンはその勢いで勢いでエイントリアン領へ矛先を向けるフラン・バルデスカの軍に3万の精鋭でどう対峙するのか。さらに、フランには最後の切り札に追い詰められた彼の運命は?

ナルヤ大侵攻とターニングポイントの第3巻

と言うわけで、ここまでルナン王国という「ゲーム」の最初に滅びる国の中で、最初に大国ナルヤに攻め込まれて滅亡する悪徳領主エルヒン・エイントリアンとしての物語でした。目的は天下統一。そのためには、彼は一地方領主から成り上がらなければなりません。その成り上がるための戦いが今巻のお話になります。

悪徳領主の本領発揮

エルヒン・エイントリアンは絵に描いたような悪徳領主だったわけですが、そのゲーム内でのイベントとしての死の直前、俺に入れ替わることで、悪徳領主としての評判を払拭し、一目置かれる存在になります。ただ、それらを払拭したのは別に「人のために役立つことをしたい」みたいな倫理観に基づいたものではありません。何しろ、彼はこの世界に天下統一に挑戦するためにやってきました。天下統一のためには民心と人材が必要。そのための布石と努力であって、決して聖人君子ではありません。

と言っても、根っからの悪人にもなれないようで、子供に縋られれば自分の目標のついでではあるものの手助けするし、今巻の終盤では突撃王女のために野望の達成の先送りも考えています。それはさておき、表の顔の良い評価を得るために裏ではだいぶ暗躍しているし、嘘ではないとはいえあえて火に油を注いで君臣の絆にヒビを入れたりと、真の悪徳領主としての立ち回りが堂に入ってきました。それでも、ゲームとは違う「現実」で普通の人である「俺」がどこまで冷徹にできるのかが気になるところです。

情報対戦力、二人の軍師の激突

公式サイト3巻の解説の見出しは「2人の天才軍師、激突!」となってます。これはエルヒン・エイントリアンとフラン・バルデスカのことでしょう。とは言っても、一地方領主に過ぎないエルヒンに対し、フランは事実上大国ナルヤの軍事の全権代理として軍を掌握し、その配下には十武将という強者たちが揃っています。彼我の戦力差を考えると銀河英雄伝説で言えばヤン・ウェンリー艦隊単体とキルヒアイス込みで麾下の銀河帝国全軍を従えたランハルト、三国志で言えば魏の全軍に対して黄巾軍と戦っていた義兄弟3人だけの劉備の義勇軍だけで挑むようなものです。

そんな彼の武器は彼しか知らない「ゲーム」の情報と、彼だけができるレベルアップの恩恵です。まあ、あとは結構ご都合で切り札が突然湧いて出てくるのがナンですが、そこはまあよしとしましょう(フランから見れば結構チートなんですが、フラン・バルデスカも結構チートだからなぁ。今回もおそらく無事に退避したはずだし)。

戦略級としてこなれてきたか

2巻の感想を書いたときに「戦略が肝なのに、結局はスキル頼みの無理無茶無謀を繰り返しているあたりがやや残念」と書きました。

今巻についても結局はスキルや古代王国の遺産頼りな面は否めず、それらがなければ勝利することはおぼつかない感じではあります。ただ、既刊に比べて一つの戦場の描写よりも大局的な描写が増えてきたようには感じました。もちろん、そういった細かい部分もないとなかなか読者に受け入れられない部分もあるのでしょう。しかし、あまりそういうところばかり書いていると先に進まないし、国が大きくなれば一つの戦場だけではなくなります。

そういう点でこの手の軍記物ぽい作品はとても難しいと思います。類似作があまりないのでハマれば大きいのですが、需要も多くなさそうが故の未開拓の荒野です。
まあ、なんだかんだで一気に読み通してしまうくらいに面白かったので、今後にも期待しています。

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