ラノベ感想・ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います

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すべての社畜に贈る、理不尽をなぎ倒す(物理)スーパーヒロインの物語。 平穏な暮らしを求めて憧れの受付嬢になった彼女を待っていたのは書類の山と終わらない残業の日々。平穏を取り戻すため、彼女は残業の原因を物理的に取り除く。しかし、ある時その正体を一人の冒険者に見抜かれてしまう。彼女は定時上がりをつかめるのか?! 

あらすじ

RPGゲームの様なファンタジーな世界。世界にはダンジョンがあり魔物が湧いてくる。そのため、冒険者が集まり魔物を討伐する。全ての魔物が一掃されれば魔物は沸かなくなる。そんな冒険者をまとめるのがギルドであり、冒険者はギルドに申請書を出してダンジョンを攻略する。

アリナ・クローバーは憧れの受付嬢になって3年目。かわいい制服を着て、決まった時間を働くだけの理想の職場と思っていたが、実際には申請書の処理にひたすら忙殺される毎日。普段はまだ定時上がりもできるが、ダンジョン攻略の進捗次第で申請が激増すると、残業残業の毎日。

しかも、今回はボス攻略が進まず1ヶ月も残業続きの状態。いい加減痺れを切らした彼女は、過去何回かやったように身分を隠してソロでボスを討伐してしまう。しかし、居合わせたギルドの精鋭パーティのリーダに顔を見られてしまう。ギルドの受付嬢は副業禁止。今は残業続きとはいえ、安定して稼げる受付嬢を辞めたくないアリナは将来を知ったジェイド・スクレイドに実力行使するが…

社畜経験を盛り込んだ新しいヒロイン像

タイトルが全てですが、アリナはとにかく残業を嫌います。と言って、仕事の手を抜くことはできず、容量の良い同僚や出来の悪い後輩の仕事を抱え込んでしまう不器用タイプです。以前は同僚のように仕事は置いて時間になったら帰るような仕事の仕方をしていましたが、それでは一向に書類の山が減らないどころが、増える一方であることを悟り、明日の定時上がりのために今日残業というポリシーを貫きます。

実際やったことがある人はわかると思いますが、それって結局仕事が集まって、連日の残業につながるのですよね。真面目だけど不器用で損するタイプ。なんかすごく身につまされます。上司、同僚、後輩の悪口を呟きながら、終わらない仕事に絶望したアリナですが、彼女には秘密がありました。

スキルが全てというご都合設定

この世界ではスキルというものがあります。ただ、「転生したらスライムだった件(転スラ)」とか「蜘蛛ですが、なにか?」と違うのは、経験を積んでスキルを成長させるのではなく、ある日突然スキルが発生します。

しかも、この世界のスキルはランクがあり、上位ランクのスキルには下位ランクのスキルでは敵わないという設定になっています。そこは転スラのユニークスキルとアルティメットスキルの関係に近いですが、転スラではユニークスキルでも戦い方とかでなんとかできますが、こちらはスキルの差は絶対の様です。そのため、戦闘経験のないただの受付嬢が歴戦の戦士を圧倒することが可能ということになっています。その辺はすごくご都合主義です。

そんな設定ですので、アリナの問題解決手法はとにかく物理的に殴り倒す方向になりがちです。仕事の段取りとかうまそうですが、先が見えてしまうが故に書類の山にブチ切れると猪突猛進した挙句、我に返った時点で反省して落ち込むという残念なヒロインです。でも、スキル発芽のきっかけとなったことといい、ある意味すごく純粋です。その想いが世界を救うことになります。

働き方改革は世界を救う

そんなアリナは金や名誉よりも安定した生活を求めます。そう思う様になったきっかけの事件もストーリー進行とともに明かされます。

アリナの残業に対する嫌悪は極端です。例えば、ダンジョンを進む間、ずっと「…残業はくそ…」とか呟きながら歩いている謎の人物。これはもうホラーです。あとがきによると作者の体験が入っている様なのですが、すごくわかります。深夜にオフィスに一人残っていて、なんで自分がこんなことしないといけないんだと、何度怨嗟の声を上げたことか。残念ながらスキルは発芽しないのが現実の虚しいところです。

他人事、かつ、フィクションながら、もっと楽に生きようよと思わず声をかけてしまいたくなります。転生ものではないですが、転生者なみのチートスキルを手に入れてしまったヒロインですが、結局、他人を放っておけないのです。

結局、今回ラストの時点で働き方改革は進んでない様です。最近はブラック企業の社畜女性が転生してスローライフを満喫する作品がよくありますが、転生しなくても彼女に平穏が訪れてほしいものです。

気になる点

主人公がすぐに腕力に訴える点で、いわゆる暴力ヒロインみたいで気になる方は気になるかもしれません。また、ご都合が過ぎる点があるので、そこが気になる人はお勧めできないです。いくらスキル差が絶対だとしても、経験もない女性が手練れの冒険者を圧倒できるというのもおかしな話です。怪我して引退になる不安定な冒険者が嫌だといいながら、ブチ切れると一人でダンジョンに突入してボスを討伐するとか矛盾しています。

でも、この勢いと残業描写が強烈なインパクトを持っていて、その辺はまあいいかと思わされてしまいます。こんな文章があちこちにあるのですよ?

残業の原因となるボスをぶっ飛ばしてダンジョンを攻略し、力尽くで残業を解消するためである

経営が立ちゆかなくなって解散、成績不振でクビ、雇用主が給料未払いのまま夜逃げ、なんてこともありえる世界である。

終わらない書類の山を見た時の絶望が、明らかに仕事が追いついていないのに、別の仕事を押し付けられた時の殺意が!帰りたいのに帰れない怒りが!

こういう報告書の類いはその日のうちに作らなければ必ず詳細を忘れることを。そして作成に時間をとられ、それは毒か呪いのように尾を引いて、明日からの定時帰りを邪魔してくるのである。

今日の甘えを清算するのは明日の自分…!なにより残業に対するやる気なんて、これっっっっっっっぽっちも生み出されやしないのよ!

そして終盤のシーンは涙があふれてしまいました。

全員、ちゃんと帰ってくる!帰って来れないのなら、私が意地でも連れ帰る…

自分だけの平穏じゃなく、仲間の平穏も求める。序盤のダンジョンでダンジョン攻略が進まない冒険者に悪態をついていたのと同一人物とは思えません。いや、これは途中で明かされるエピソードを知れば納得できるのですが。文句を言いつつ仕事はこなすし、ブチ切れなければいい娘なんですけどね…。

次巻も出したいとの話があとがきにありますが、今作でかなりインフレしているので、正直、次巻以降の展開は苦しそうな気はします。しますが、是非とも2巻目を出してほしいです。